赤闇の心
静寂。
本館地下一階、訓練場。
光の届かない石床の中心で、
夜姫は膝を折り、両手を組んで瞑想していた。
お嬢様と、しらゆきが外出している。
昼間のデート。
その事実だけで胸がざわつく。
(……呼吸が乱れるなんて、みっともない)
自嘲し、深い闇へと意識を落とす。
そのとき――
『……夜姫』
耳ではない。
心の奥へ直接流れ込む声。
『お前、弱くなったな』
「……誰?」
影が揺れ、闇の粒子が凝り固まり、
黒紫の輪郭へと形を変える。
闇の精霊――
薄く笑う、無貌の存在。
『手に入れて満足したか?
あの魔女の隣で、ただ甘やかされたいだけか?』
「違うわ」
即答だった。
「私は……
お嬢様を失いたくない。
他の誰のものにもしたくない」
『では何故、震えている』
心臓がひゅっとすぼまる。
(私は怖い。
しらゆきが当然のように隣へ立つことが)
『認めよ。
独り占めしたいと、叫べ』
夜姫は歯を噛み締め、
心の蓋を静かに外す。
「――独占したい」
声は震えず、澄み切っていた。
「私だけのものにしたい。
あの方の全てを」
『いい声だ』
闇が、愉悦に震える。
『ならば寄越せ。
その黒い恋こそが、力だ』
闇が夜姫の胸へ流れ込む。
熱く、赤い衝動。
嫉妬さえ愛の燃料に変える感情。
「っ……く……!」
咆哮を飲み込みながら、
夜姫の身体が震える。
そして。
闇は赤へと変質する。
赤闇――
愛が暴走した色。
『契約成立だ、夜姫』
精霊が囁く。
『もっと求めよ。
もっと掴み取れ。
奪われる前に、奪い返せ』
夜姫はゆっくりと目を開く。
金色だった瞳は――
闇の赤を帯びて輝いていた。
(私はもう、遠慮しない)
立ち上がる。
靴音が鋭く響いた。
「お嬢様の隣は――
私が奪う」
唇に艶やかな微笑みが浮かぶ。
(しらゆき。
あなたがどれだけ強くても)
「次は――私が奪う」
妖艶な自信が、
夜姫の全身を包み込んでいた。
今年は『お嬢様物語』を読んでくださり、本当にありがとうございました!
まだ始まったばかりの物語ですが、
皆さまの応援のおかげで毎日楽しく書けています。
明日1月1日――新年の幕開けとして
『挿話あけおめ回』(0時公開)
『“お年玉”10話一気更新!』 (17時公開)
を予定しています!
初詣から帰ってきたら、ぜひお嬢様に会いにきてください。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
良いお年をお迎えください!




