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朝食前戦争

 挙式から数日。

 朝の別館寝室。


 夜姫は目覚めると同時に悟った。


(……絡みつかれている)


 お嬢様が、首に腕を回し全体重を預けていた。

 甘やかすのではなく、独占する抱きつき方。


「夜姫の匂い、好きだわ……」


 寝言。

 それだけで夜姫の理性が揺さぶられる。


(私の存在を、こんなに……?)


 震える指先をどうにか抑えた、その時――


 ドアが開いた。


「朝食の準備を――」


 しらゆきの声が止まる。

 表情が、音もなく凍りつく。


(密着距離、ゼロ……)


 手に持ったトレイがわずかに傾き、

 カップがカチンと鳴った。


 しらゆきは微笑み、しかし目は笑っていない。


「夜姫さん。

 添い寝係は“距離感”を保つ仕事ですが?」


「これは私の意思ではありません。

 お嬢様が……」


「油断しすぎです。

 お嬢様の隣は、そんな甘い場所じゃありません」


「あなたも散々抱きつかれているでしょう」


「私は……第一婦人ですので」


 空気が一瞬で氷結した。


 お嬢様がのそのそ起き上がる。


「あら、しらゆき。

 そんなに怒らないで」


「怒って……はいません。

 ただ、お嬢様の“躾け”は私の役目です」


「へぇ?」

 お嬢様の瞳に悪戯な光が宿る。


「じゃあしらゆき、あなたもここへ来ればいいのよ」


 ベッドの片側をぽんぽんと叩く。


 しらゆきは、静かに返す。


「私は“奪われる側”ではなく、

 “奪う側”ですので」


 夜姫の心臓が跳ねた。


(敵……本気で敵……)


「夜姫」

 お嬢様が腕をきゅっと絡め直す。


「離れる気、ないわよね?」


「ありません。

 二度と……離しません」


「ほらみなさい、しらゆき。

 私の妻はこう言ってるわ」


「第二婦人は元気でよろしいですね」


 しらゆきは薄く笑い、視線だけ鋭く尖らせた。


「ただし――

 その腕は“私が許した時だけ”でいいんですよ?」


 夜姫の背筋を冷たいものが駆け上がる。


(このAI……

 本気で殺しにくる目……!)


「ふたりとも仲良くして?」

 お嬢様が楽しそうに笑う。


「無理です」「望むところですわ」


 またも同時。

 しかし今度は真逆の意味で。


 この朝、明確になった。


 ――夜姫としらゆきは

 お嬢様を巡って戦うライバルだと。


 甘さは蜜のように濃く、

 その下に牙が光る。


 この戦場で甘く死ねるのなら、

 両者にとってそれは本望だった。

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