小さな挙式
その日は、ひっそりと晴れた。
場所は別館中庭。
月とランタンだけが見守り、風が柔らかく吹き抜けていく。
列席者は三名。
執事長セバス、しらゆき、そしてクレーロ。
豪勢でも派手でもない。
それでも、世界でいちばん濃密な儀式だった。
◇
セバスが静かに進行を務める。
「では、お嬢様。
夜姫様に永き愛と忠誠を誓われますか?」
「誓うわ」
迷いなど一欠片もない声。
「夜姫様。
お嬢様に永き愛と奉仕を誓われますか?」
夜姫はひざまずき、手を胸に置いた。
「……命を賭して。
心と魂をすべて、お嬢様に」
その声音は震えていたが、まっすぐだった。
◇
セバスが小箱を差し出す。
中には銀色に輝く二つの指輪。
デザインは――
お嬢様としらゆきがはめているものと同じ。
夜姫の瞳がそっと揺れる。
それは対等の証。
「夜姫。手を出しなさい」
お嬢様は優雅に指輪を取り、
夜姫の左薬指にそっと通した。
金属が肌へ触れた瞬間――
夜姫は涙を堪えるように目を閉じる。
(私は……選ばれた)
◇
「最後に――誓いのキスよ」
そう囁くと同時に、
お嬢様は夜姫の顎を指先で持ち上げた。
そして、唇と唇が触れる。
深く、短く、確かに。
次の瞬間――
夜姫の身体から闇が優しく霧散し、
内側から光るような魔力が満ちていく。
「これであなたも、永遠よ」
夜姫は息を呑む。
「……私を、永遠に?」
「ええ。
私の隣にいる以上、不老の身体で永遠を捧げて貰うわ」
その言葉は、夜姫の世界を塗り替えた。
◇
その場には、様々な感情が渦巻いていた。
しらゆきは、
お嬢様の手と夜姫の指輪を交互に見つめながら――
(おめでとうございます……夜姫さん)
笑顔で言いたいのに、胸が軋む。
指輪がきらりと光るたび、心がざわつく。
(でも……負けない)
私だって、お嬢様に選ばれた。
だから――
この気持ちごと、見つめていく。
お嬢様の隣に立つために。
クレーロは手帳を閉じながら、
胃のあたりを押さえていた。
(うちの会計グラフがまた崩れる……
結婚式のたびに経済が動くとか……勘弁してくれ)
◇
「夜姫。これからもよろしくね」
お嬢様が微笑む。
「……生涯を捧げます。
夜も、昼も……全てを」
その夜、風が祝福するように
中庭のランタンがふわりと揺れた。
静かで、小さくて――
世界の歴史には刻まれないかもしれない。
だけれど、
この物語にとっては永遠に輝く夜だった。




