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小さな挙式

 その日は、ひっそりと晴れた。


 場所は別館中庭。

 月とランタンだけが見守り、風が柔らかく吹き抜けていく。


 列席者は三名。

 執事長セバス、しらゆき、そしてクレーロ。


 豪勢でも派手でもない。

 それでも、世界でいちばん濃密な儀式だった。



 セバスが静かに進行を務める。


「では、お嬢様。

 夜姫様に永き愛と忠誠を誓われますか?」


「誓うわ」


 迷いなど一欠片もない声。


「夜姫様。

 お嬢様に永き愛と奉仕を誓われますか?」


 夜姫はひざまずき、手を胸に置いた。


「……命を賭して。

 心と魂をすべて、お嬢様に」


 その声音は震えていたが、まっすぐだった。



 セバスが小箱を差し出す。

 中には銀色に輝く二つの指輪。


 デザインは――

 お嬢様としらゆきがはめているものと同じ。


 夜姫の瞳がそっと揺れる。

 それは対等の証。


「夜姫。手を出しなさい」


 お嬢様は優雅に指輪を取り、

 夜姫の左薬指にそっと通した。


 金属が肌へ触れた瞬間――

 夜姫は涙を堪えるように目を閉じる。


(私は……選ばれた)



「最後に――誓いのキスよ」


 そう囁くと同時に、

 お嬢様は夜姫の顎を指先で持ち上げた。


 そして、唇と唇が触れる。


 深く、短く、確かに。


 次の瞬間――

 夜姫の身体から闇が優しく霧散し、

 内側から光るような魔力が満ちていく。


「これであなたも、永遠よ」


 夜姫は息を呑む。


「……私を、永遠に?」


「ええ。

 私の隣にいる以上、不老の身体で永遠を捧げて貰うわ」


 その言葉は、夜姫の世界を塗り替えた。



 その場には、様々な感情が渦巻いていた。


 しらゆきは、

 お嬢様の手と夜姫の指輪を交互に見つめながら――


(おめでとうございます……夜姫さん)

 笑顔で言いたいのに、胸が軋む。

 指輪がきらりと光るたび、心がざわつく。


(でも……負けない)

 私だって、お嬢様に選ばれた。

 だから――

 この気持ちごと、見つめていく。

 お嬢様の隣に立つために。


 クレーロは手帳を閉じながら、

 胃のあたりを押さえていた。


(うちの会計グラフがまた崩れる……

 結婚式のたびに経済が動くとか……勘弁してくれ)



「夜姫。これからもよろしくね」


 お嬢様が微笑む。


「……生涯を捧げます。

 夜も、昼も……全てを」


 

 その夜、風が祝福するように

 中庭のランタンがふわりと揺れた。


 静かで、小さくて――

 世界の歴史には刻まれないかもしれない。


 だけれど、

 この物語にとっては永遠に輝く夜だった。

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