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じゃんけん勝者

 夜更け。

 別館寝室は、静かな息づかいだけが満ちていた。


 夜姫は眠りの淵で、不意に目を覚ます。

 胸に、熱が触れた気がした。


(……何?)


 微かな重み。

 そして――柔らかな温もり。


 首を動かし、視線を落とす。


 そこには。


 お嬢様が腕と脚を絡め、

 まるで夜姫に溶け込むように抱きついていた。


「っ……!」


 喉が鳴る。

 声にならない悲鳴。


(な……なんで……?

 私は添い寝役で……触れる役じゃ……)


 お嬢様の呼吸が、頬を撫でる。

 甘い香りが髪をすり抜ける。


 夜姫の指先が震える。


(触れたい……

 ずっと……触れたかった……)


 けれど。


(……私の手が汚れていたら?

 このぬくもりを壊したら?)


 迷いが胸に刺さり、夜姫は固まったまま動けない。


 その時――


 お嬢様が、夢の中で微笑む。


「ん……夜姫……あったかい……」


 その囁きが、夜姫の理性を崩した。


(ああ――負けた)


 静かに、そっと。

 夜姫はお嬢様の背へ手を回す。


 最初は怖くて震えていた腕が、

 やがて強く。

 大切なものを抱きしめるように。


 夜姫は目を閉じ、額を触れ合わせた。


(この人を、守りたい)


 その想いだけが、

 夜姫を優しく包んだ。


 お嬢様の寝息は心地よい子守歌となり、

 夜姫は静かに意識を手放した。


 眠りながらお嬢様を抱きしめた夜姫。

 勝者は――夜姫だった。

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