寝る場所は、愛の争奪戦
別館ダイニング。
夜の静けさの中、ティーセットが三つ並んでいる。
お嬢様は優雅に椅子へ腰掛け、紅茶を一口。
しらゆきは対面で、どこか不機嫌げに背筋を伸ばす。
夜姫はお嬢様の少し後ろ、無表情で控えていた。
この場の空気を支配しているのは――しらゆきだ。
「では、第二婦人となった夜姫に、館での過ごし方を説明します」
落ち着いた声だが、隠しきれない針が混じる。
「まず――別館への出入りは自由とします。
しかし、寝室への入室は禁止です」
その瞬間、パキンと何かが割れた気がした。
「却下よ」
お嬢様が、即答したのだ。
「私は平等に愛するの。しらゆきも、夜姫も。」
しらゆきの表情からハイライトが抜け落ちる。
「……お嬢様。そのお言葉、強すぎます。
心が……追いつきません」
夜姫が小さく口元を緩めた。
しらゆきの動揺を楽しむように。
「寝室の出入り禁止は撤回します」
しらゆきはすぐに態度を切り替えたが、声は震えていた。
「就寝につきましては……交代制とします」
お嬢様は目をぱちくりさせる。
「交代制?
じゃあ私って……一人で寝る日があるってこと?」
「はい。人間は一人でも眠れます」
「私は無理よ!寂しいんだから!」
主張が愛らしすぎて、しらゆきは天を仰ぐ。
(……この甘えん坊が。愛おしいけど、危険でもある)
すると、夜姫が静かに前へ出た。
「交代制、承知しました。
ですが一つ、提案があります」
「提案?」とお嬢様。
「就寝前に、お嬢様への献身時間を――
15分、平等に設けてはいかがでしょう」
しらゆきがぴくりと眉を動かす。
「献身時間?何をするつもりですか」
「髪を梳き、肩を揉み、抱きしめ、
心を満たして差し上げるだけですよ」
「当たり前みたいに“抱きしめ”入れないでください!」
「あなたもしているでしょう?」
「私はAIです。理性ある最適な――」
「でも、抱きしめたいのでしょう」
しらゆきの言葉が止まった。
耳まで真っ赤に染まっていく。
「……私は、お嬢様のものです」
小さな声。けれど重い宣言。
「違うわ」
お嬢様はふわりと微笑んだ。
「私は皆のものよ?」
「承知しています(※処理落ち気味)」
CPU温度が上がる音がした。
夜姫が、追い打ちをかけるように言った。
「しらゆき。あなた、嫉妬しているわね」
「はあ!? 私が嫉妬するわけ――」
「隠さなくていいの。
お嬢様の隣は譲らない……
その瞳が物語っているもの」
しらゆきは唇を結び、言葉を失う。
お嬢様はそんな二人を愛おしそうに眺めた。
「仲良くしてね?」
「無理です」
「もちろんですわ」
異なる回答が、完璧なタイミングで重なる。
お嬢様は小さく笑った。
「じゃあ、寝る準備しましょうか」
しらゆきがぴたりと動く。
「今夜の寝室当番は……じゃんけんで決めましょう」
「望むところです」夜姫が冷たい炎を宿す瞳で応じる。
「負けません」しらゆきがきっぱり宣言した。
二人の視線が火花を散らす。
お嬢様はその熱を胸に受けながら、ひそかに思う。
(……愛されすぎて困っちゃうわね)
甘くて危険な夜は、まだ幕を上げたばかり――。




