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恋は刃、愛は盾

そして――


 お嬢様が、五歩だけ距離をとった。


 その瞬間。


 妖力が夜姫を包む。


「私に愛と忠誠を誓うと言うのなら――

 この手を取りなさい」


 左手を差し出すお嬢様。

 声は冷酷、だが誘うように甘い。


 殺気を帯びた妖力が告げる。

 『一歩でも誤れば死ぬ』――と。


 たった五歩。

 しかしその距離は、深淵。


(逃げろ)

 本能が叫ぶ。


(触れたら死ぬ)

 恐怖が脊椎をかじる。


 けれど――夜姫は足を前に出した。


 一歩。

 膝が笑う。


 二歩。

 呼吸が焼ける。


 三歩。

 涙が滲む。


(それでも――あの方の隣に立てるなら)


 四歩。

 視界が暗転する。


(殺されても……構わない)


 五歩目。


 夜姫は、倒れ込むように――

 その手を掴んだ。


「……っ!」


 触れた瞬間、圧が消える。

 代わりに、温かい闇が指先に満ちる。


 お嬢様は静かに告げた。


「よく来たわ。

 夜姫――あなたに、私を守る資格を与える」


 夜姫はその手を胸元へ抱きしめる。


「命も魂も……貴女に」


「愚かね」


 お嬢様は、わずかに微笑む。


「そんなもの全部捧げる女を――

 私が手放すと思う?」


 夜姫の瞳から、静かに涙が落ちた。

 破滅か救済か判別のつかない涙。


(この闇こそ、あの方の光になる)


 月が雲を抜け、

 二つの影が重なる。


 その瞬間――夜姫の誓いは世界に刻まれた。


 闇はお嬢様のためだけにある。


 夜が深く、静かに満ちていく。

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