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妻にしてほしい

 月が、高い。

 白い光が、静かに庭を撫でていた。


 夜姫は一人、跪いて待っていた。

 黒いドレスの裾が、露で濡れる。


 足音。

 夜気に混じる、あの人だけの気配。


「呼び出しなんて珍しいわね、夜姫」


 お嬢様が現れる。

 淡い光を纏って。


 夜姫は息を呑み、震える指先を握った。


「……お嬢様」


 その声は――決壊寸前。


「私は、この一ヶ月。

 ずっと、貴女を守るために強くなりたいと思っていました」


「ええ、知ってるわ」


「でも……違ったのです」


 夜姫は顔を上げる。

 金の瞳が潤んでいた。


「私が求めたのは――

 護る力ではなく、独占する力」


 胸を押さえる。

 吐き出せば壊れる弱さがそこにある。


「他の誰かに触れられるたび……

 狂いそうに、なったんです」


 夜姫の声は、涙でちぎれた。


「私は汚い。

 暗く、醜い嫉妬で満たされている。

 貴女を愛すたびに、悪い女になる」


 地面に手をつき――

 額を石畳に押し当てた。


「それでも……」


 声が掠れる。


「それでも、貴女の隣にいたい……」


 触れたい。抱きしめられたい。

 けれど――許しもなく触れるわけにはいかない。

 夜姫は指先を、石畳に沈めた。


「どうか、見捨てないで。

 闇の私を、置いていかないで」


 涙がぽたぽたと零れ落ちる。


「私は……私を……

 貴女だけの……妻にしてほしい」


 絞り出すように。


「――結婚、してください」


 夜姫は泣きながら、跪いたまま動かない。


 風が揺れる。


 月光が二人を照らす。


 お嬢様の唇が、静かに開く――。


「夜姫」


 その声音は

 いつにも増して、優しくて

 少しだけ、酷い。


「貴女の闇は――とても、美しいわ」


 お嬢様は、微笑んだ。


 夜姫の指先が震える。


「でも」


 その一言が

 刃のように夜姫の心臓を刺す。


「答えは――」


 月が、雲に隠れた。


 夜が、一層深くなる。


 そして――

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