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恋敵でも、仲間でも

 本館地下の静かな訓練場。

 足音すら呑まれる闇……のはずが、今日は光だけ。


 しらゆきが展開した光粒のフィールドが

 影を徹底的に消していた。


「影がなければ、あなたは弱い。

 ――それが現状です、夜姫様」


「わかってるわよ」


 夜姫は蒼い息を吐く。

 いつもなら闇を集め、風を裂いて動く脚に――

 今日は“重さ”が絡みつく。


(あの夜……私はまた震えた

 闇がなければ、お嬢様を守れない自分に)


 瞳が金に点滅する。


「だから強くなるの。

 光の下でも、灼ける陽でも。

 どんな場所でも……お嬢様の隣に立つために!」


 夜姫、踏み込む。

 一撃一撃に宿る“愛”の衝撃が床を軋ませる。


 刹那――白い指先が夜姫の手首を優しく受け止めた。


「愛が強いほど、視野は狭まる」


 しらゆきの声は無機質……なのに、

 夜姫の胸を撫でるように刺さる。


「あの方は“守る対象”ではありません。

 ――共に進むお方です」


「そんなこと、私が一番わかってる!」


「では、視界を広げてください」


 夜姫は歯を食いしばる。

 拳を取られたまま、しらゆきが静かに告げた。


「私は感情を持ちません。

 けれど……夜姫様の愛が“狂気”へ向かうなら」


 淡々と、最も刺す言葉だけ選んで。


「その時は、私が止めます――

 お嬢様を泣かせないために」


 夜姫の呼吸が乱れる。

 ――胸が灼けた。


(そうよ。結局私は、嫉妬してるだけ……!)


 拳が震え、しかし折れない。


「止められてたまるもんですか」


 夜姫の声は低く、しなる刃。


「私が泣かせるのは……

 お嬢様の涙を“幸福で満たす時”だけ」


 しらゆきが僅かに目を細めた。

 評価か、警戒か――読めない。


「でしたら。続けましょう」


 光粒が再び弾け、

 二人は無言で距離を詰める。


 その夜、

 夜姫の拳は一度も届かなかった。

 息を荒げ、片膝をつく。


 静かに差し出される白い手。


「今日はここまでです。…また明日続けましょう」


 夜姫は俯き、肩が小刻みに震える。

 だが――声だけは、真っ直ぐ。


「ええ。お願いするわ」


 手を取る指が、まだ戦うように強く。


 その夜、

 ボロボロの身体とは裏腹に、

 夜姫の心は――ほんの少し、前へ進んだ。

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