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影が消える夜

 夜。

 王都郊外の廃工場。


 軍用転用の列車部品が積まれ、

 武装した男たちが巡回していた。


 だが――


「配置、甘いわね」


 影が、音もなく地を撫でる。

 夜姫が黒いハイヒールで金網を歩きながら降り立つ。


 手には、クレーロが渡した作戦図。


「後方に強力な通信塔、左翼に武器庫。

 全部、数字通りに片付ける」


 男が気づいた瞬間には、

 夜姫の扇がひらりと舞っていた。


 金属音。

 その刃は首も心臓も狙わない。


 扇に触れた男は、

 電撃に似た衝撃でその場に崩れ落ちた。


「眠っていなさい」


 冷たくも優しい声。

 夜姫は決して、命を刈り取らない。



 警報が鳴る。

 銃口が一斉に向く。


 夜姫はため息をひとつ。


「雑音ね」


 影が奔る。

 銃を握る腕だけが、柔らかい軌跡で絡め取られる。


「っ、動かねぇ……!?」


「安全に倒れて」

 夜姫が足を払う。男たちは痛みすらなく眠りに落ちた。


 すべて、計算通りだ。

 クレーロの作戦書そのままに。


「……あなたも大変ね」

 夜姫は小さく呟く。

「世界の汚れは、数字の裏に溜まるものだから」


 闇の奥へと進む。

 残る敵は――本丸のみ。



 「て、敵は影使いだ!アグレロ!」

 

 「わかった!」


 アグレロと呼ばれた少年が光に包まれる……光の精霊適合者だ。

 周囲の影が霧散していく。夜姫の影すら消えていく。 


 夜姫は息を整える。

(情報にない……だが冷静に。いつも通り――

 影を奪われても、私は折れない)


 だが胸の奥が熱い。

 ザラつく焦燥が走る。


(心配させたくない……

 あの方にだけは)


 影を伸ばし、三人を一瞬で無力化。

 銃を奪い、部位だけを極めて眠らせる。


「そこまで」


 アグレロの光弾が、夜姫の足元を抉る。

 黒がまたひとつ消える。


「影は、もう使えないぞ……っ!」

 彼は必死に吠える。


「ならば――」


 夜姫の声が、少し震えた。


「私は、あなた方を殴ればいいのね?」


 一瞬、兵たちは息を呑んだ。


 夜姫の蹴りが閃く。

 四人が壁へ叩きつけられ、意識を手放す。


 呼吸が荒くなる。

 化粧が少しだけ乱れていた。


(負けたくない

 奪われたくない

 認められたい)


 感情が溢れてくる。

 夜姫は奥歯を噛んだ。


「あの方だけは……

 絶対に、誰にも触れさせない」


 影を残すため、灯りを壊す。

 だが光適合者の輝きがそれを上回る。


「悪いけど……俺たち、引けねぇんだ!」


 アグレロの背後に

 残った兵たちが震えながら銃を構える。


 残り、四人。


 夜姫は立ちすくむ少年を睨む。


「守りたいなら、倒れて」


 そして、駆けた。

 四人の銃口が一斉に火を噴く。


 夜姫が扇で弾こうとした瞬間――


(間に合わない)


 銃弾が、夜姫の胸元を正確に捉えた。


 ――次の瞬間。


 静寂。

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