影が消える夜
夜。
王都郊外の廃工場。
軍用転用の列車部品が積まれ、
武装した男たちが巡回していた。
だが――
「配置、甘いわね」
影が、音もなく地を撫でる。
夜姫が黒いハイヒールで金網を歩きながら降り立つ。
手には、クレーロが渡した作戦図。
「後方に強力な通信塔、左翼に武器庫。
全部、数字通りに片付ける」
男が気づいた瞬間には、
夜姫の扇がひらりと舞っていた。
金属音。
その刃は首も心臓も狙わない。
扇に触れた男は、
電撃に似た衝撃でその場に崩れ落ちた。
「眠っていなさい」
冷たくも優しい声。
夜姫は決して、命を刈り取らない。
◇
警報が鳴る。
銃口が一斉に向く。
夜姫はため息をひとつ。
「雑音ね」
影が奔る。
銃を握る腕だけが、柔らかい軌跡で絡め取られる。
「っ、動かねぇ……!?」
「安全に倒れて」
夜姫が足を払う。男たちは痛みすらなく眠りに落ちた。
すべて、計算通りだ。
クレーロの作戦書そのままに。
「……あなたも大変ね」
夜姫は小さく呟く。
「世界の汚れは、数字の裏に溜まるものだから」
闇の奥へと進む。
残る敵は――本丸のみ。
◇
「て、敵は影使いだ!アグレロ!」
「わかった!」
アグレロと呼ばれた少年が光に包まれる……光の精霊適合者だ。
周囲の影が霧散していく。夜姫の影すら消えていく。
夜姫は息を整える。
(情報にない……だが冷静に。いつも通り――
影を奪われても、私は折れない)
だが胸の奥が熱い。
ザラつく焦燥が走る。
(心配させたくない……
あの方にだけは)
影を伸ばし、三人を一瞬で無力化。
銃を奪い、部位だけを極めて眠らせる。
「そこまで」
アグレロの光弾が、夜姫の足元を抉る。
黒がまたひとつ消える。
「影は、もう使えないぞ……っ!」
彼は必死に吠える。
「ならば――」
夜姫の声が、少し震えた。
「私は、あなた方を殴ればいいのね?」
一瞬、兵たちは息を呑んだ。
夜姫の蹴りが閃く。
四人が壁へ叩きつけられ、意識を手放す。
呼吸が荒くなる。
化粧が少しだけ乱れていた。
(負けたくない
奪われたくない
認められたい)
感情が溢れてくる。
夜姫は奥歯を噛んだ。
「あの方だけは……
絶対に、誰にも触れさせない」
影を残すため、灯りを壊す。
だが光適合者の輝きがそれを上回る。
「悪いけど……俺たち、引けねぇんだ!」
アグレロの背後に
残った兵たちが震えながら銃を構える。
残り、四人。
夜姫は立ちすくむ少年を睨む。
「守りたいなら、倒れて」
そして、駆けた。
四人の銃口が一斉に火を噴く。
夜姫が扇で弾こうとした瞬間――
(間に合わない)
銃弾が、夜姫の胸元を正確に捉えた。
――次の瞬間。
静寂。




