影を捨てる夜、牙を研ぐ闇
「仕込みは完璧です。後は派手に“回収”してくださいよ」
夜の倉庫街を見下ろす高台。
クレーロが手にする魔導通信器には、裏社会の幹部たちが
まんまと一箇所に集結している映像が映っていた。
「お嬢様に手を出す計画なんて……
商人舐めんじゃねえぞって話ですわ」
胃薬片手に、クレーロは不敵に笑った。
「標的は三十七名。全員、裏社会の中核です」
「ええ。その“闇”、今日で終わりよ」
夜姫が影から現れる。
その背には抜き身の魔剣《黒霞》。
「援護は任せてください。
夜間モード、フルバースト」
しらゆきの瞳が蒼光を宿し、
背部から稲妻のエンジンが噴き上がる。
「行きましょう。
お嬢様の闇を、私たちの手に」
◆
倉庫内部。
幹部たちが黒い机を囲み、計画書を広げている。
「魔女の失脚? 笑わせる」
「やれるさ。あの女は一人だ」
「違うわよ」
声は天井から――影から。
「魔女には、私がいる」
その瞬間、照明が全て消えた。
パリン、と割れる音。
闇に金の瞳が三十七の視線を貫く。
「夜を、私に」
影が膨張し、床から無数の黒槍となって立ち上がる。
「ぎゃあああ!?」
「足が……沈む!? 助け――!」
「影縫い。
命乞いできる時間、与えるわけないでしょ」
悲鳴が重なる。
ただし、それは始まりの合図にすぎない。
◆
「稲妻制圧、開始」
倉庫壁をぶち抜き、
青白い閃光と共にしらゆきが降り立つ。
「最大出力、18秒限定」
彼女の指先から無数の電撃レーザー。
狙撃精度、百分の一ミリ。
敵の武器だけを焼き切り、
神経を麻痺させ、膝を折らせる。
「ひ、ひいい……
化け物が……二人も……」
「ええ。まだ二人よ」
◆
「全員確保確認!」
クレーロの声が通信器から入る。
「出入口封鎖完了!
衛兵隊も“適法手続き”で動かしてます!」
「優秀ね、クレーロ」
「褒められると……胃が痛ぇ!」
◆
戦いは終わった。
鉛のような静寂の中――
「夜姫」
しらゆきが近づく。
「その選択を。
誤ったとは、言わせません」
「誤るものですか」
夜姫は血に濡れた髪を掻き上げる。
「闇ではなく。
あなたの光を護るために、振るのよ」
しらゆきの眼光が揺れる。
「競争相手としては、最悪です」
「恋ってそういうものよ」
夜姫は笑った。
◆
数秒後。
倉庫の扉が軋む。
お嬢様が、夜風をまとって現れた。
「さすがね。
二人とも、よくやったわ」
その微笑み一つで、
すべての闇が光に変わる。
「さ、帰りましょう。
あなたたちの居場所はここじゃない」
夜姫は主の背中を見つめ、
ゆっくりと跪いた。
「――お嬢様の影として。
世界すべての夜を、あなたに」
魔女と影とAI――夜を統べる三つの刃
新しい秩序がここに揃った。




