世界は夜も、お嬢様の都合で動いている。
夕暮れ。
王都は、まだ知らない。
この夜が“彼女”によって動き出すことを。
書斎の机には、積み上がった設計図が影を落としていた。
「……お嬢様。そろそろ目を休めませんと」
背後から、しらゆきが控えめに声をかける。
「新幹線の図面を描いたら、色々思いついちゃうのよね」
お嬢様は椅子にもたれ、小さく伸びをする。
魔導新幹線の着工が新聞に踊った朝から、お嬢様はずっと考え続けていた。
それを見たしらゆきは、そっと背後から抱き寄せる。
「思いつきは、明日からでも間に合います。
今日は――お楽しみになられては?」
「あら、誘ってくれるの?」
「ええ。
王都がどれほど平和になったか……
あなたの目で、確かめてください」
お嬢様は小さく笑い、魔導端末を開いた。
『王都の夜、見に行きましょう』
お嬢様がその言葉を送信した瞬間――
王都は静かにざわつき始めた。
しらゆきが肩を落とす。
「……それだけで、王都中が騒ぎになります」
「夜だもの。
人が騒ぐのは健康よ?」
《王都・夜のざわめき》
@王都酒場の店主
「通行規制って何? 誰か来るのか?」
@路地裏バーの新人
「店長が正装してる。こわい」
@キャストA(♀)
「最上級の笑顔を用意しろって言われたんだが?」
@王都防衛隊
「警備レベル2! 市民は安心して夜を楽しんでください!(震)」
しらゆきは端末を閉じ、深い溜息。
「……お嬢様の御言葉一つで、世界が動きます」
「なら、良い方向に動かしましょう?」
お嬢様が笑うと、しらゆきは――
ほんの少しだけ頬を膨らませた。
「……誰かにモテたら困ります」
「あなたがついてきてくれるのでしょう?」
「当然です」
しらゆきは、お嬢様の右隣へ一歩。
その仕草は、誰より誇らしげで。
「――では参りましょう。
今宵の王都の夜へ」
二人は肩を並べて歩き出す。
その背中を、王都の灯りが照らした。




