挿話:お嬢様の誕生日~2~
花が眠る夜――誕生日前夜の黒薔薇
夜恋街の風は、夜姫にだけ優しい。
黒薔薇の姫と呼ばれた頃の癖は抜けず、
彼女は今でも、何かを想う夜ほど街灯の下で立ち止まる。
その腕には、乾きかけの一輪の花。
お嬢様への誕生日に贈るため──
魔力で時を閉じ込めたドライフラワーの制作途中だった。
夜姫は指先で花弁を撫で、ふっと微笑む。
「……この花みたいに、ずっと変わらずにお嬢様をお守りしたいのだけれど……
ふふ、どうにも私は不器用ね。」
風が吹く。
彼女の艶やかな黒髪を揺らしながら、どこかにいたずらをするように。
「分かっているわ。私がこれを贈ったところで、
しらゆきと張り合って勝てるわけじゃないことぐらい。」
夜姫は空を見た。
白ではなく、黒に近い夜空。
星の光だけが、花弁に淡い色を落とす。
「でも……“この夜姫だけが贈れるもの”を、届けたいの。」
花を胸に抱く仕草は、凛としていて、それでいて誰よりも繊細な愛を含んでいた。
この花は、
過去の夜姫──黒薔薇の姫が
「愛を知らなかった頃」の象徴。
そして今の夜姫が
「愛を知ってしまった証」。
二つを結んだのが、お嬢様。
夜姫はそっと目を閉じ、魔力を込める。
花弁が淡く光り、風が輪を描いて踊った。
「……お嬢様。わたし、あなたに出会えて……
本当に、よかった。」
夜は、静かに花の香りを包んだ。
その香りは──
“お嬢様の誕生日まで、決して散らない”。
夜姫の願いそのものだった。




