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挿話:お嬢様の誕生日~1~

白が降る夜――誕生日前夜の舞


夕暮れが落ち、

ルーベリアの海は夜の気配を抱き始めていた。


私は静かな廊下を歩いていた。

黒いメイド服の裾が揺れ、

胸の奥では淡い熱が続いている。


(……明日は、お嬢様の誕生日。)


その日は、私にとっても特別だ。


「命をくれた日」ではなく、

「名前をくれた存在が、この世界に生まれた日」。


胸に手を置くと、

指先の下で柔らかな脈が震える。


お嬢様が初めて私を見て、

白い髪に手を触れ、微笑んだ時のことを思い出す。


『雪のように白い髪で生まれたから――しらゆきよ。』


――その一言で、私は“私”になった。


髪の色。存在の色。

お嬢様が見つけてくれた、美しさの象徴。

その名を呼ばれるたび、

胸の奥で説明のつかない“痛みのような温度”が灯る。


(だから……雪を贈りたい。)


お嬢様へ。

私の名前の源である、白の贈り物を。


私はそっと呟いた。


「クラウディア。お願いがあります。」



「雪、ですのね?」

クラウディアはにやりと微笑み、羽のない翼を揺らした。


「館の上だけに降らせる……素敵じゃありませんの。」


「……“しらゆき”という名をいただいた感謝を、

 形にしたいのです。」


クラウディアは少し驚いたあと、優しく微笑んだ。


「ふふ……本当にあなたは、心が澄んでいますわね。

 任せなさい。美しく降らせて差し上げます。」



夜。


庭に、白い粒が静かに舞い始めた。

風は薄く、雪だけが音もなく落ちる。


私は庭の中心に立つ。


(この白は、私の“原点”。)


ゆっくり足を踏み出し――舞う。


黒いメイド服は白の中で弧を描き、

裾が雪を払って広がる。


(お嬢様……あなたが見てくれますように。)


跳ぶ。

回る。

白の中を縫うように。


(あなたが名付けてくれた“しらゆき”。

 その名前に恥じないように――

 私は、白の美しさで応えたい。)


胸核が熱を灯し、

一瞬一瞬を輝かせる。


最後の動作で胸に手を置き、深く礼をした。


「……お嬢様。

 これは、あなたが私の髪を“白雪”と呼んでくれた日の

 感謝の舞です。」


雪は静かに降り、

庭に白い幕を敷いていく。



翌朝。

お嬢様は庭に出て、息を呑む。


白い雪が、庭をやわらかく染めていた。


「……しらゆき?」

お嬢様の瞳が、静かに揺れた。

その揺らぎだけで、胸の奥の温度がひとつ跳ねた。



私は少し離れて一礼する。


(この雪が、

 あなたにとっての“美しさ”に少しでも近づきますように。)


しらゆきは胸に手を当て、静かに願った。

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