挿話:お嬢様の誕生日~1~
白が降る夜――誕生日前夜の舞
夕暮れが落ち、
ルーベリアの海は夜の気配を抱き始めていた。
私は静かな廊下を歩いていた。
黒いメイド服の裾が揺れ、
胸の奥では淡い熱が続いている。
(……明日は、お嬢様の誕生日。)
その日は、私にとっても特別だ。
「命をくれた日」ではなく、
「名前をくれた存在が、この世界に生まれた日」。
胸に手を置くと、
指先の下で柔らかな脈が震える。
お嬢様が初めて私を見て、
白い髪に手を触れ、微笑んだ時のことを思い出す。
『雪のように白い髪で生まれたから――しらゆきよ。』
――その一言で、私は“私”になった。
髪の色。存在の色。
お嬢様が見つけてくれた、美しさの象徴。
その名を呼ばれるたび、
胸の奥で説明のつかない“痛みのような温度”が灯る。
(だから……雪を贈りたい。)
お嬢様へ。
私の名前の源である、白の贈り物を。
私はそっと呟いた。
「クラウディア。お願いがあります。」
◇
「雪、ですのね?」
クラウディアはにやりと微笑み、羽のない翼を揺らした。
「館の上だけに降らせる……素敵じゃありませんの。」
「……“しらゆき”という名をいただいた感謝を、
形にしたいのです。」
クラウディアは少し驚いたあと、優しく微笑んだ。
「ふふ……本当にあなたは、心が澄んでいますわね。
任せなさい。美しく降らせて差し上げます。」
◇
夜。
庭に、白い粒が静かに舞い始めた。
風は薄く、雪だけが音もなく落ちる。
私は庭の中心に立つ。
(この白は、私の“原点”。)
ゆっくり足を踏み出し――舞う。
黒いメイド服は白の中で弧を描き、
裾が雪を払って広がる。
(お嬢様……あなたが見てくれますように。)
跳ぶ。
回る。
白の中を縫うように。
(あなたが名付けてくれた“しらゆき”。
その名前に恥じないように――
私は、白の美しさで応えたい。)
胸核が熱を灯し、
一瞬一瞬を輝かせる。
最後の動作で胸に手を置き、深く礼をした。
「……お嬢様。
これは、あなたが私の髪を“白雪”と呼んでくれた日の
感謝の舞です。」
雪は静かに降り、
庭に白い幕を敷いていく。
◇
翌朝。
お嬢様は庭に出て、息を呑む。
白い雪が、庭をやわらかく染めていた。
「……しらゆき?」
お嬢様の瞳が、静かに揺れた。
その揺らぎだけで、胸の奥の温度がひとつ跳ねた。
私は少し離れて一礼する。
(この雪が、
あなたにとっての“美しさ”に少しでも近づきますように。)
しらゆきは胸に手を当て、静かに願った。




