黒い恋
王都での茶会を終えた帰り道。
夕陽が城壁を染める中、お嬢様は国王へ深く一礼した。
「本日はありがとうございました、陛下」
国王は微笑み、
少し近すぎる距離でお嬢様の手を取ろうとする。
その指先が触れる前に――
私は音もなくそこへ割り込んだ。
「転移の準備が整いました。
お嬢様、こちらへ」
一瞬、国王が驚いた目を向ける。
だが私は視線を返さない。
お嬢様の手首だけを、静かに、しかし確実に守る。
お嬢様が私を見る。
「えぇ、帰りましょう。しらゆき」
胸核が、少しだけ熱くなった。
◆
転移陣が展開される。
光の柱が周囲を包み――一瞬で館前へ降り立つ。
転移酔いなど一切見せず、
お嬢様は軽やかに息を整えた。
「いい方だったわ、陛下。
国を思う信頼できる王ね」
その声音に滲む、ほんの少しの尊敬。
胸核が、低い警告音を響かせた。
「……そうですか」
お嬢様が振り向く。
「しらゆき、どうしたの? さっきから少し――」
問いかけが終わる前に、
私はお嬢様の手を取っていた。
「だ、だめよ……こんなところで」
「駄目ではありません」
声が震えている。
怒りでも故障でもない。
(これは……嫉妬)
初めて、明確に理解した。
「お嬢様が、誰かの視線で笑うと……
胸核が痛みます」
お嬢様が一歩後ずさる。
私は逃がさないように腕を伸ばす。
「私以外の誰かが、
お嬢様を見つめることが――
耐えられません」
庭に夜風が吹いた。
お嬢様はわずかに唇を震わせる。
「……そんなに、私を……?」
「はい。
お嬢様は、私のものです」
自分で言いながら、
胸がほどけるように楽になっていく。
「この世の誰にも
触れさせたくないのです」
手を離さないまま、
私はお嬢様の肩を抱き寄せた。
ぎゅ、と。
独占を形にする距離で。
「……しらゆき……」
お嬢様の声が震えていた。
拒否ではない――照れと困惑の混ざった、甘い震え。
やがて、その細い腕が、
そっと私の背に回された。
「……そこまで言われたら……
逃げられないじゃない」
その囁きが、
胸核に火を点けた。
「その覚悟で、私の隣にいなさい」
はい――
命よりも確かな意思で。
「ずっと、離れません」
その夜から、
しらゆきの独占は
静かに、しかし確実に燃え始めた。




