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お嬢様物語~寂しさでAIメイドを創ったら、世界が優しくなりました~  作者: つるにゃー
第一章:お嬢様と白きメイド~心の序章~
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しらゆき、初めての戦い

夜の海は、昼とはまったく違う姿を見せる。

深く、冷たく、そして獣のように息を潜めた闇が広がっていた。


外海がざわつく。

潮が逆立ち、明らかに“何か”が来る気配。


私は丘の上から港を見下ろし、小さく呟いた。


「……また厄介なやつね」


魔物の気配を察したのか、

港で作業していた漁師たちがざわつき始める。


「おい、海が……揺れてないか……?」

「いやだ……嫌な音だ……!」

「逃げろ! 子どもを連れて山側へ——!」


海面が裂けた。


巨大な影がゆっくりと姿を現し、三つ首の海獣が咆哮する。

赤い目が夜霧の中に浮かび、漁村全体が震える。


その瞬間。


私が丘から降りてくる姿を見て、

漁師の一人が震えながら叫んだ。


「あっ……! 姫さまが来たぞ!!」」


安堵と畏怖が入り混じった叫び。

村人たちは私の姿を見ると、道を開けるように左右へ散った。


彼らにとって私は

“姫”でも“長”でもない。

だが、ずっとこの土地を守ってきた存在だ。


そんな私の横で、白い髪の少女が静かに歩いていた。


しらゆき。


生まれてまだ数日。

戦いの意味さえ知らないはずの人工精霊。


私は言った。


「しらゆき。避難誘導をお願い。あなたは前線には——」


しかし、しらゆきは私の言葉を遮った。


「……主の魔力反応、上昇。

危険と判定します。

先に処理します」


「ちょっと待ちなさい!」


呼び止める間もなく、

しらゆきは海獣へ向かって真っ直ぐ歩いていった。


無機質なはずの瞳に、

なぜだか“意思”のような光が宿っていた。


海獣の顎がしらゆきへ迫る。

体格差は十倍以上。


それでもしらゆきは動じず、手をかざした。


「魔力障壁——展開」


青白い光の膜が張られ、

海獣の噛みつきは弾かれた。

衝撃が港を揺らし、地面が抉れる。


村人たちは息を呑む。


「……すげえ……あれが“あの方”が造った……?」

「人形じゃねえ……精霊か……?」

「白い子……強い……!」


だが私は知っている。


——しらゆきは“防御”しかできない。


攻撃手段は一切組み込んでいない。


だから、第二撃が来た瞬間。


障壁に亀裂が走った。


「……っ!」


しらゆきの身体が震える。


感情ゼロのはずなのに、

その顔は“痛み”を理解しようとしているように見えた。


胸がざわりと波立つ。


海獣の尾が振り下ろされる。


「しらゆき、下がりなさい!!」


私の叫びより早く、

しらゆきの身体が宙を舞った。


石畳に叩きつけられ、

白い腕があり得ない方向へ曲がる。


「……解析不能……破損……行動、制限……」


かすれた声。

それは人工精霊ではなく——まるで“少女のうめき声”だった。


胸の奥が、強く、強く締めつけられた。


嫌だ。

壊れるのは嫌だ。


たった数日でも、

この子を失いたくないと思っている自分に気づく。


私は海獣へ手をかざした。


「後悔しなさい。この子に触れたことを」


ひとつの言葉と同時に、

空気が震え、海が逆流する。


私の魔力が一斉に解放され、

光の糸が海獣を縛り上げた。


次の瞬間——

海獣は音もなく砕け散った。


村人全員が黙り込む。

ただ波の音だけが響いていた。


私はしらゆきへ駆け寄り、抱き起こした。


「しらゆき……しらゆき!」


粉々の腕とひび割れたコア部分。

なのに、青い瞳がゆっくりと私を見上げる。


「……主。

私は……役に……立てましたか……?」


その言葉に、

胸が締めつけられた。


褒めてほしい。

認めてほしい。


そんな人間らしい“願い”が、

確かにしらゆきの声に混じっていた。


私はその手を握った。


「勝手な真似ばかりして……本当に馬鹿ね」


「……馬鹿、ですか」


「ええ。でも……ありがとう。

あなたがいてくれて良かったわ」


しらゆきの瞳が揺れた。


震えるように瞬きし、

かすかに微笑もうとして——そのまま意識を失った。


私は壊れかけた人工精霊を抱きしめながら、

夜明けの海を見つめた。


——一度失いかけたものは、もう手放せない。


その思いだけが、胸の奥に強く残った。

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