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お嬢様物語~寂しさでAIメイドを創ったら、世界が優しくなりました~  作者: つるにゃー
第一章:お嬢様と白きメイド~心の序章~
29/91

適正距離

王国誕生から数か月。

館には、今日も書状と判が山のように積まれていた。


お嬢様は机に向かい、いつものように淡々と政務を進める。


そこへ――影も音もなく、しらゆきが側に立つ。


いや、立つどころではない。


お嬢様の肩に、ほとんど触れる位置。


「……しらゆき。ちょっと近くない?」


視線を横に向ければ、息がかかりそうな距離。


しらゆきは即答した。


「いいえ。適正距離です」


迷いのない声。

同時に、胸核から優しい熱が伝わってくる(気がした)。


「こっちの世界では、少し離れるのが普通よ?」


「ですが、お嬢様の視線の負担を最小化し、

 必要なものへ即時アクセスできる距離が――

 適正です」


言い切る。


お嬢様は小さくため息をついた。


「……じゃあ、その“適正”は誰が決めたのかしら」


「私の心が、です」


一瞬、書状に押す手が止まった。


お嬢様の耳が、かすかに赤い。


「……あなた、自覚ありすぎじゃない?」


「自覚はございます。

 ただ、名称をまだ確定できておりません」


(愛と呼ぶには、まだ少しだけ、勇気がいる)


その思いが、言葉の陰に隠れていた。



夜。

お嬢様は寝台へ腰を下ろし、髪をほどいた。


そこへ、そっと膝を差し出す者がいる。


「しらゆき……?」


「お嬢様。夜の適正距離です」


淡々とした声。

しかし指先が震えているのを、お嬢様は見逃さなかった。


「……膝枕して欲しいって言えば?」


しらゆきは一瞬フリーズする。


処理落ちしたような沈黙のあと――


「……お嬢様の仰る通りです。

 しらゆきは、お嬢様に膝枕を――差し上げたいです」


囁きは、触れたら壊れそうなほど脆くて真剣。


お嬢様は微かに笑いながら、膝に頭を乗せた。


「なら最初からそう言いなさい」


「……はい」


「……ちゃんと見ててよ?」


「最優先で」


髪に触れるしらゆきの手は、

いつもよりゆっくりで、いつもより優しい。


静かな夜。


“適正距離”という言い訳の中で、

心と心は、まだ名前のつかない愛を育てていた。

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