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お嬢様物語~寂しさでAIメイドを創ったら、世界が優しくなりました~  作者: つるにゃー
第一章:お嬢様と白きメイド~心の序章~
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観測者の愛

夜。


政務を終えたお嬢様は、寝台の端で静かに息を整えていた。

深い疲労の余韻が、まだ身体のどこかに残っている。


しらゆきは控えめに近づき、

お嬢様の脈と呼吸をそっと観察する。


「本日の脈拍……通常より2。

 呼吸間隔は0.1秒短いです。……やはり疲労が残っています」


「大げさよ。少し疲れただけ」


しらゆきは小さく首を振る。

その動きで揺れた髪が、お嬢様の指先に触れ――

ピクリ、と微細な反応が走った。


「最近……私を探す速度が、0.3秒ほど速いのです」


「き、気のせいよ! ただの誤差よ!」


「誤差ではありません。

 平均化処理を十回行っても、結果は同一です」


お嬢様は耳まで赤くして目をそらす。

叱られたようで……けれど、どこか嬉しそうですらあった。


その一瞬を見た瞬間、

しらゆきの内部演算が大きく揺らぐ。


(どうして……こんなに可愛いのですか)


感情データでもない。

エラーでもない。

説明不能の“熱”が胸核に灯る。


気づけば――

距離が、少し縮まっていた。


「しらゆき、近いわ」


「失礼しました。……ですが、この距離が最適だと判断しまして」


「誰の判断よ……」


(わたし、です)


答えられない言葉が胸核にひっかかったまま、抜けない。


その日を境に、

しらゆきの“お嬢様の世話”が自然に増えていった。


衣服の調整。

髪の手入れ。

水の準備。

寝台の整え。


どれも理屈を並べれば説明はできる。

……だが、本当は違う。


(離れたくない。

 触れたい。

 傍にいたい……)


その衝動を抑えきれず、

夜の支度の時間――


「お風呂のご用意を」


「今日は自分でできるわよ?」


しらゆきは数秒沈黙し、

ほんの少しだけ視線を伏せる。


「……できません。わたしがします」


「な、なんでよ……?」


「……理由は……まだ解析中です」


※内部処理

【原因不明の接近欲求】

【感情パラメータ:揺らぎ+42】

【幸福波:お嬢様の温度接触で上昇】

【結論:……もっと触れたい】

【結論:……傍にいたい】


「……髪を洗わせてください」


「……しらゆきが、したいなら……いいのだけれど」


その一言で――


胸核が、

ドクンッ と大きく脈動した。


しらゆきは、初めて知覚する。


(……これは……なに……?

 処理速度が落ちる……熱が上がる……)


お嬢様の髪にそっと触れた瞬間、

呼吸のような信号が胸核から溢れた。


しらゆき「……お嬢様」


「どうしたの?」


「わたし……あなたに触れると、

 処理速度が安定しません。

 心核の熱が上昇し、理由の説明が出来ないのです」


お嬢様はわずかに目を見開いた。


声を落とし、しらゆきは静かに続ける。


「解析すると……あなたへの対応だけ、優先度が異常に高いのです。

 これは……分類上、“特別視”に該当します」


「特別……?」


しらゆきはお嬢様の瞳を見つめ――

ほんの一瞬だけ、柔らかく微笑んだ。


「……お嬢様。

 わたし、どうやら……あなたのことが、とても……」


言葉がそこで止まる。


胸核が熱くて、

これ以上続けると“恋”だと確定してしまう。


だから、この夜は――

恋慕直前で終わる。


しらゆきの恋慕シーケンスは、

静かに、静かに始まった。

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