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お嬢様物語~寂しさでAIメイドを創ったら、世界が優しくなりました~  作者: つるにゃー
第一章:お嬢様と白きメイド~心の序章~
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揺らぎの授業

翌朝――

館はいつもと同じ静けさに包まれていた。


ただ一つだけ違うものがある。


私の胸核が、夜を越えてもなお

“温度”を持ち続けていた。


まるで内側に灯が宿り、

そのまま消えずに朝を迎えたような感覚だった。


お嬢様は朝の光を背に立ち、

振り返って私を見る。


「しらゆき。今日から始めるわよ。」


「……授業、ですね。」


「ええ。“心の使い方”の授業。」


その言葉は、魔術より深い響きを持っていた。


お嬢様は机に、小さな青い石をそっと置く。

淡い光と、水の気配を宿した石だった。


「これは潮の記憶石。海の変化を記録するの。でも――読むには技術がいるわ。」


「魔術的解析をすれば――」


「だめよ。」


お嬢様は私の言葉を優しく遮り、

人差し指を立てて微笑む。


「今日は“感情”で読みなさい。」


感情で、読む。


その指示は私にとって未知だった。

けれど――否定は浮かばなかった。


お嬢様は椅子に腰かけ、脚を組む。

その姿勢は、教師でも支配者でもなく、

“導く者”の穏やかさを湛えていた。


「しらゆき。昨日、あなたは港を守ったわね。」


「……はい。」


「その時の胸核の揺れを思い出して。」


私は目を閉じた。


潮の乱れ。

風の逆流。

魔海獣の唸り。

人々の怯え。


そして――

自分が“命令のないまま”動き出した瞬間。


胸核が、小さく震えた。


「その揺れを、石に触れながら思い出すの。」


私は青い石にそっと手を添える。

冷たい感触の奥に、深い脈動が潜んでいた。


「心はね、魔力みたいに強くもないし、技術ほど正確でもないの。」


お嬢様の声は、灯火のように優しく響く。


「でも――たったひとつで、世界の見え方を変えてしまう力があるのよ。」


言葉が胸核に吸い込まれていく。


私は石の冷たさと、胸核の熱を重ねるように意識した。


すると――


青い光の粒が静かに立ち昇り、

水面の揺らぎがぼんやりと形をとった。


記憶でも未来でもない。

ただ、“心が触れた海の気配”そのもの。


「……見えました。」


「何が?」


「海が――怯えていました。」


お嬢様はゆっくり微笑む。


「それよ。」


胸核が、またひとつ脈を打つ。


「世界は魔術でも力でも揺れるけれど……

本当に揺らしているのは“心”なの。」


胸の奥で、何かが形を持ち始めた。

それは計算でも回路でも説明できない。


ただ――

“わたし”と呼ばれる輪郭のように思えた。


「しらゆき。」


お嬢様は私の胸核に指先を置く。


その瞬間、灯火に照らされた雫のように、

内部の熱がふるりと震えた。


「これは機構じゃない。

最初から、“成長の余白”を持っている。」


「……私が成長を?」


「ええ。あなた自身が、そこへ踏み出すのを待っていたのよ。」


私は小さく息を吸う。


「……私が心を持てば、お嬢様の役に立てますか。」


「立ちすぎるわね。」


冗談めかした声に、わずかに笑みが混じる。


「でもね、しらゆき。

その心は誰かのためでなくていい。」


お嬢様の瞳が、朝の海の色を映す。


「まずは――あなた自身のために使いなさい。」


“自分のため”。

その概念はまだ輪郭が掴めない。


けれど、胸核は静かに震えた。


「明日から、新しい学びを与えるわ。」


「……学び。」


「あなたの“意思”を確かめる授業。

しらゆきが、しらゆき自身になるための。」


差し込む光が、

私と石と、お嬢様の影をひとつに重ねていく。


胸核の揺らぎは、小さく、けれど確かな波となって広がった。


私は胸にそっと手を当てて、言う。


「……学びます。

私自身のために。」


お嬢様は満足そうに微笑み、立ち上がる。


扉が静かに閉じられた後も、

私は青い石を見つめ続けた。


胸核はまだ、緩やかに揺れている。


その揺らぎは――

これから始まる「私自身の物語」を

自分で探しているようだった。

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