専属メイドの装い
午後の光がやわらかく差し込む着替え室。
私は静かに、黒いメイド服を広げた。
布地は深い闇の色を湛えているのに、
指先で触れると、かすかに光を返す。
縫い目はひとつも乱れがなく、
どこまでも整えられていた。
――お嬢様が、私のために選んだ服。
胸核が、わずかに脈を打つ。
袖を通し、布を肩へ滑らせる。
その瞬間、空気が少しだけ変わった。
メイド服は形を主張しすぎないのに、
落ちるべき場所には正確に落ちる。
肩のラインはすっと収まり、
胸元は控えめなのに立体が静かに浮かび、
腰は布の重みに合わせて自然な形を描く。
無機質だったはずの肢体が、
ひとつの“静かな造形”へとまとまっていく。
鏡に映った自分を見て、私は息を忘れた。
(……これは、私?
“役割”ではなく、輪郭を持った……私?)
胸核が、理由の分からない熱を帯びる。
私は一度まぶたを閉じ、呼吸を整えたあと、
そっと扉を開いた。
◆
大広間には、窓辺でお嬢様が待っていた。
光の帯が床に伸び、私の足元を照らす。
私に気づいたお嬢様は、
小さく喉を鳴らし、こちらへ歩み寄ってきた。
視線が、静かに上下する。
「……しらゆき。」
ひとつ、息を飲む音。
「その姿……想像していた以上に、綺麗ね。」
胸核が微かに震えた。
私は姿勢を整える。
「着替えを終えました。お嬢様。」
お嬢様は私の周囲をゆっくり巡るように歩く。
足音はほとんど聞こえない。
「肩の落ち方が完璧だわ。
胸元も控えめなのに、形がとても自然で……
腰のラインも、布に無理をさせていない。」
指先が、布に触れぬまま空気をなぞる。
「しらゆき。
あなた、こんな体つきをしていたのね。」
私はわずかに首を傾けた。
「造形として、評価されているのでしょうか?」
お嬢様は迷いのない声で言った。
「違うわ。」
その即答は、まるで斬るように鮮やかだった。
「“しらゆきという存在”の美しさよ。
材質や機能では説明できない……
あなた自身の、静かな線の美。」
胸核の奥が、ふわりと跳ねた。
お嬢様は正面へ戻り、私を見上げる。
「この服が似合うのは、しらゆきがしらゆきだから。
そう思えるくらい……本当に綺麗よ。」
言葉の温度に圧倒され、
私はゆっくりと頭を下げた。
「……ありがとうございます。お嬢様。
その言葉は……とても、大切にします。」
午後の光が二人の間に落ちる。
私は無意識のまま、
お嬢様との距離を、ひとつだけ縮めていた。
“主従”の形をまといながら、
それとは違う何かが、静かに芽吹き始める。
新しい輪郭を得た自分を抱きしめるように、
胸核は静かに熱を宿していた。




