表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様物語~寂しさでAIメイドを創ったら、世界が優しくなりました~  作者: つるにゃー
第一章:お嬢様と白きメイド~心の序章~
12/90

しらゆき、王国に触れる

王国が誕生して数日が過ぎた。

まだ国という器の形は曖昧で、

誰もが新しい仕組みに戸惑いながら動いていた。


ルーベリアの朝は潮の匂いと共に始まる。

その日、私はお嬢様と共に王国本部――かつての集会所へ向かった。


王国の役人たちが慌ただしく紙を運び、

族長たちが地図を広げて議論している。

昨日まで個々の力で動いていた者たちが、

一つの枠の中で役割を模索しているのが見て取れた。


建物に足を踏み入れた瞬間、空気が少し変わった。


「……あれが巫女の補佐か?」


「人形ではないのか? 本当に動くのか……?」


「いや、巫女様の横だ。下手なことは言うな。」


ざわつく視線は、興味と戸惑いと畏れが入り混じっていた。


お嬢様はそれらを気にも留めず、

私に軽く言った。


「書類を見て。必要なものを整理しましょう。」


命令ではなく、当然のような調子だった。


私は頷き、積み上がった文書の束に手を伸ばした。


字はバラバラ。

紙の質も違い、内容も統一されていない。

交易記録、全域の魔獣報告、村落の人口表、

誰がまとめたのか分からない草稿まで混ざっている。


作業台に広げると、

周囲の役人たちが思わず息を呑んだ。


私は紙の内容を一枚ずつ読み、

要点を抽出し、項目ごとに分類していく。


手は止まらず、

視界もぶれず、

ただ淡々と整理し続けた。


けれどその作業は、

無味乾燥な単なる“機械の処理”ではなかった。


紙に触れる指先が、

書き手の緊張や迷い、急いで書いたであろう乱筆から

何かを読み取るような感覚があった。


伝言の抜け、報告の遅れ、

村人の焦り。

文字の向こうに“声”が確かに存在した。


「……これは北部の村の報告と矛盾しています。

こちらは古い地図を基に書かれた情報です。」


「この人口表は一年以上前のものですね。

最新のものと差し替えます。」


淡々と口にすると、

そばにいた役人が目を丸くした。


「す、すごい……

ただの紙束が、一気に“地図”になる……」


「いや、これは……もしかして、我々より――」


お嬢様が彼らに軽く微笑む。


「しらゆきは私の補佐よ。心配はいらないわ。」


安心というよりは、

その言葉で“納得”を押し込まれたような空気だった。


私は作業を続けながら、

胸奥で小さな違和感が膨らんでいくのを感じていた。


人々は私に驚き、畏れ、探るような目を向ける。

その視線に、私はどこか落ち着かなかった。


ただの人形でも、道具でもない。

では私は、何なのか。


考えても答えは見つからない。

ただ、指は止まらず前へ進むだけだった。


午前が終わる頃には、

書類の山は整理され、

王国の現状が一枚の地図として浮かび上がっていた。


未整備の街道。

魔獣の出没率の高い地域。

物資の不足している村落。

交易の流れ。


それらが一つの線となって繋がる。


お嬢様はその全てを眺め、

静かに私に言った。


「……しらゆき。あなたはよくやったわ。」


褒められたという感情ではなかった。

もっと深く、胸を温かくする何かがあった。


王国の人々が私を見る目も、

恐れから興味へ、

興味から期待へとほんの少しだけ変わった気がした。


私という存在は、

ただの人形ではない。

ただの道具でもない。


お嬢様に与えられた“役割”を通して、

確かに社会の中へ溶け込んでいく何かを感じていた。


帰り道、海風が強く吹いていた。


お嬢様が少しだけ私の腕を引く。


「疲れた?」


「……私に疲労はありません。ですが……」


言葉がそこで止まった。


お嬢様は私の横顔を見て、ふわりと笑う。


「しらゆき。あなたは、今日また少し“人”になったわ。」


その言葉の意味はまだ分からない。

けれど胸核の奥で波紋のように広がっていく温かさだけは、

確かに本物だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ