正妻と新しい光
保護されてから一週間。
アンはようやく、館の空気に馴染みつつあった。
そして今日――
ついに、あの二人と顔を合わせる。
第一婦人・しらゆき。
第二婦人・夜姫。
「第一婦人のしらゆきです。
どうぞ、よろしくお願いします」
丁寧な一礼。
完璧な姿勢、完璧な声。
アンは思わず背筋を伸ばした。
(……この人が、あの“完璧なメイド”)
対して、夜姫は脚を組み、涼しげに微笑む。
「お嬢様の婦人、夜姫よ。
怖くはないわ。たぶん」
アンは思わず吹き出しそうになるが――
すぐに頭を下げた。
「はじめまして、アンと申します。
お嬢様には大変お世話になっております」
笑顔は健気で、まっすぐだった。
しらゆきは静かに目を細める。
(無垢ですね……柔らかい心)
夜姫は口元だけで笑う。
(眩しい。まるで太陽の子……)
今日はお嬢様が外出のため不在。
試験中の量産型カールを見に行っている。
「では、三人でお茶でもしながら
お嬢様の帰りを待ちましょう」
しらゆきが優雅にティーセットを広げた。
「お手伝いさせてください!」
アンが慌てて立ち上がる。
「まだ仕事ではありません。
ゲストとして、座っていてください」
「そんな……落ち着きません」
アンが困ったように笑うと、夜姫が肩を竦める。
「いいじゃない。働きたいなら働けば?
あの方の館は“好きに生きる”場所よ」
「夜姫。教育の最初は“甘えること”です」
「ふふ、正妻は厳しいわね?」
小さな牽制の火花が散る。
気づかないアンは、紅茶の香りに目を輝かせた。
「美味しそう……!
こんなの、飲んだことありません!」
無垢な喜びは、場の空気をふわりと照らす。
しらゆきと夜姫は、意識せず頬を緩めていた。
(ああ。だからあの方は――
この子を助けたのね)
二人は同時に思った。
お嬢様はまたひとつ、
世界に優しい火を灯してしまったのだ。




