はじめての家
ある日の午後。
アンが休んでいるゲストルームの扉が小さくノックされた。
「お嬢様からのお預かりものです」
メイドが差し出したのは、封蝋のされた一通の手紙。
差出人を見て――アンの指が震えた。
(……あの屋敷の、皆)
手紙を開く。
そこには不器用な文字で、彼女たちの想いが綴られていた。
――アン様が無事に魔女様の庇護下に入られたと聞き、
心から安心いたしました。
――あなたは妾腹でも、私たちにとっては大切な仲間でした。
――領主一家の裁判が始まります。
私たちは処遇の決まる前に屋敷を出るつもりです。
どうか、あなたは幸せに。
――強くて明るいアン様なら、大丈夫です。
――庭で笑っていた姿を忘れません
手が、文字を追うたび止まる。
胸の奥が熱くなり、視界が滲む。
(居場所なんて……なかったはずなのに)
父には娘扱いされず、
継母からも存在を消され、
“使用人”として過ごした日々。
でも。
(私を、見てくれていた人たちが……いたんだ)
涙がひと筋、頬を伝う。
「アン?」
扉が開き、お嬢様が顔を覗かせた。
泣いているのを見て、すぐ隣に腰を下ろしてくれる。
「つらい手紙だった?」
「違います……。
優しい手紙でした……」
震える声で答えると、お嬢様はそっと背を撫でた。
「それなら良かったわ。
もう不安がる必要はない。ここが貴方の家よ」
その一言で、アンの世界は音を立てて塗り替えられた。
アンの胸がきゅっと縮む。
(家……)
初めて言われた言葉。
アンは思わず、お嬢様に身を預けていた。
「……幸せになります。
絶対に、お嬢様のもとで」
その誓いは、涙で濡れていたけれど。
力強く、まっすぐだった。




