此処に居ていい
数日間、アンは館で静かに療養した。
優しく丁寧なメイドたちが世話をし、
夜になると悪夢を遠ざける魔術が施される。
だが何より――
お嬢様が毎日訪ねてくれることが、何よりの薬だった。
「今日は調子はどう?」
ベッド脇の椅子に腰を下ろし、
アンの髪を優しく撫でてくれる。
その指先は魔術よりも温かい。
「……はい。お嬢様のおかげで」
「ふふ、まだ無理はしなくていいわ
貴方が望むなら、居場所はずっとここにある」
その優しい眼差し。
自分が“人間”として扱われている感覚。
アンは胸が熱くなるのを抑えられなかった。
(どうして……
どうしてこんなにも優しいの?)
理屈も理由もいらないほど、
お嬢様という存在はまぶしすぎた。
「アン。私が不在の間も、怯える必要はないわ。
この館全体が貴方を守るの」
その言葉で、体の力が抜ける。
(……救われた)
アンは、涙がこぼれそうになるのを慌てて拭う。
「泣いてもいいのよ?」
「……泣きません。
泣いたら……お嬢様の顔をちゃんと見られなくなるから」
言った瞬間、自分で赤面した。
お嬢様は少しだけ驚き、それから柔らかく微笑む。
「正直ね。私はそういう子、嫌いじゃない」
アンの心臓が跳ねる。
(好き――)
それは恋慕の形をはっきり成していた。
救われた命。
与えられた温もり。
生まれて初めての“見てもらえる幸福”。
全部ひっくるめて。
(私は……この人が好き)
アンは静かに決めた。
この心を、
――お嬢様に捧げると。




