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灯がともる朝

 静かな夜明けが、カーテン越しに差し込んでいた。

 昨夜までの絶望が嘘のように、穏やかだった。


 ここは――お嬢様の館。

 ふかふかのベッド、薄い香りのハーブ。

 目を開けたアンは、見知らぬ天井と豪奢な部屋に一瞬怯えた。


「おはよう。もう大丈夫よ」


 柔らかい声。

 銀の髪を揺らし、魔女は枕元に座っていた。


 王都の誰もが畏れる存在が――

 今はただ、優しい微笑みを向けている。


「貴方は私の庇護下にある。

 これから先、誰にも触れさせないわ」


 その言葉は魔術よりも温かく胸に染みた。


「……あ、あの……

 助けて、くださったのですか?」


「ええ。それで――」

 魔女はまっすぐに令嬢を見る。


「名前は?」


「……アンです。

 家名は……もう、捨てます」


 声は震えた。

 親に金で売られた姓など、名乗りたくなかった。


「賢いわ」

 にっこりと微笑まれた瞬間、涙腺が揺れた。


「スープを用意させるわ。

 胃に優しいものにしましょう」


 アンはこくりと頷く。

 その一動作すら精一杯だった。


 魔女が立ち上がる。

 その背中は、誰よりも強く、誰よりも優しい。


(どうして私は……助けられたの?)


 孤独と絶望に沈んでいた少女の胸に、

 初めて――あたたかな灯がともった。

 涙がひと粒、静かに頬を伝う。

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