市場に流された血筋
夜。
王都の外れ。
薄暗い倉庫に設けられた臨時オークション会場。
武装した男たちが巡回し、
魔力封じ結界が張り巡らされている。
だが――
「影は甘いわね」
黒いハイヒールが音もなく床に触れる。
夜姫がすでに侵入済み。
薄闇を裂く、鋭い囁き。
「手早く片付けるわよ、夜姫」
天井から降り立つ、白い影。
しらゆきが静かに並び立つ。
互いに視線は交わさない。
ただ、呼吸ひとつで意思が通じる。
「人質は後方ブロック。
拘束強度、低いわね」
夜姫の影が床を滑り、
檻を囲む男たちを無音で沈めていく。
倒れた男の腕を枕に、震える令嬢へ手を伸ばす。
「もう大丈夫。眠っていなさい」
扇が舞う。
令嬢は静かに気を失い、影がそっと抱き留める。
夜姫の目は怒りに濡れていた。
(お嬢様の未来を穢す汚泥。
その全てを、私が焼き払う)
しらゆきは一歩も動かずに告げる。
「開始します」
次の瞬間――
倉庫全域が「沈黙」に飲み込まれた。
音が消える。
男たちが倒れていく気配だけが、波紋のように伝わる。
頭部に軽い打撃。
戦闘不能、命は奪わない。
(お嬢様が悲しまれることは、すべて排除する)
眼が冷たく光る。
「後方は制圧完了。そっちは?」
「残り、六」
同時に二人が動く。
白と黒。
光と闇。
対照が美となって舞う。
影が絡め取り、
指先の光が眠りを与える。
数秒後。
敵は一人も立っていなかった。
「……これでは、競い合えませんわね?」
「競う必要はありません。
貴女は“お嬢様の二番目”ですから」
「口が悪いわよ、しらゆき」
微笑みながらも、視線は鋭く交錯する。
だが――二人の心は一つ。
「お嬢様の幸福の為に」
完全勝利。
◇
外に出ると、転移魔術で待っていたキールが扉を開ける。
「救出完了。
あとはお嬢様が裁きます。
皆さま、どうぞご乗車を」
闇市の灯りが断たれ、静かに夜が戻った。




