夜の底で助けを呼ぶ声がした
――鍵のかかった夜の情報
机上の魔導水晶が、不穏な波形を刻む。
裏流通網の定期監視に引っかかった“異常値”。
クレーロは眼鏡を押し上げ、浮かび上がるオークションリストに目を走らせた。
名簿に記された新たな出品――
区分:上物
マーキング:未触
管理タグ:貴族推薦枠
等級:特級(繁殖適正候補)
その下に添付された、血筋の証明。
王都でも名のある貴族家の紋章。
(……ふざけんな)
胃が、キリキリ痛む。
だが手は冷静に次の資料へ。
出品処理の申請署名――
その名前を見た瞬間、息が止まる。
(鉄道出資団の重鎮……!
革命の予算を捻り出すために、娘まで売るつもりか)
クレーロは短く深い息を吐いた。
感情を押し流し、判断だけを残す。
すぐに魔導端末を取り出し、電話をかける。
すぐに繋がった。お嬢様は上機嫌な声音で「急ぎ?」と聞いてくる。
「お嬢様、闇市でVIP令嬢が出品予定。
確度高し。裏はあり。
救出及び摘発を検討賜りたく」
数呼吸後、
『……すぐに部隊を動かすわ。
しらゆきと夜姫を派遣する』
凛とした、だが怒りを含んだ声に変わる。
『あなたは情報追跡を継続。
取引相手も必ず暴くのよ、クレーロ』
「お任せを。
……胃薬を追加支給いただけると幸いですが」
微かに笑い声が返ってきた。
『許可するわ。請求はしらゆきに回しておいて』
(やれやれ……ありがたいけど、助からねぇ)
通信が途切れた後、
クレーロは静かに立ち上がる。
今この瞬間、娘の未来が売られようとしている。
その愚を止めるのが――裏方の役目。
「……俺の手で、全部繋いでやる」
誰に聞かせるでもなく、ただ小さく誓った。




