無事故の誓い、利息は死神
本館執務室。
午後の光が地図の上に落ち、王国の未来を照らしていた。
レティシアは一度まぶたを閉じる。
女王として――そして父の夢を継ぐ者として。
「父は、国を動かそうとしました。
でも……夢半ばで終わってしまった。
だから私が、最後まで走らせます」
まっすぐな眼差しだった。
もうあの少女ではない。
お嬢様は紅茶を口にしながら、唇を緩める。
「走り続ける国。
いいじゃない。そういうの、好きよ」
レティシアの肩の震えが静まる。
「ただ……必要資金は莫大です。
鉄道、物流車両、新都市。
三つを同時に建設しなければ意味がない」
「で? いくら?」
逃げ場を作らない声音。
レティシアは覚悟を込めて答えた。
「金貨二十三億枚」
本来なら国が三年かけて積む額。
その言葉は、空気を凍らせるはずだった。
だが――
「貸すわ。全部」
お嬢様は、何でもないように微笑んだ。
レティシアの瞳に安堵が滲み、すぐに緊張が戻る。
「……感謝いたします」
しらゆきが横から静かに補足する。
「貸付は無利子にて。ただし――」
お嬢様が指先で机を軽く叩き、言葉を継ぐ。
「事故、起こさないでね?
一件でもあれば利息は取る。
お嬢様銀行の利息よ。
――王国なんて一瞬で潰れるわ」
重すぎる条件。
けれど、非常に公正。
レティシアの喉が僅かに動いた後、
強い声が響く。
「潰れません。
潰させません。
命を賭けて――無事故で完成させます」
お嬢様は満足げに微笑む。
「その覚悟。待ってたわ」
手を伸ばし、レティシアの手を包む。
「未来は、あなたが走らせるの」
「はい。
この王国を――世界でいちばん遠くまで」
もう迷いはない。
歴史が動き出す音がした。




