赤闇、まだ醒めず
目を覚ますと――
胸元に、小さな重みと温もり。
「……っ」
お嬢様が、夜姫の上に猫のように丸まって眠っていた。
柔らかな髪が首をくすぐり、規則正しい呼吸が肌に触れる。
(なんて……無防備な)
胸の奥から、ぞくりと熱がこみ上げる。
昨夜の独占欲――赤闇の心が、残滓をもって蠢いた。
けれど夜姫はそっと、
お嬢様を包むように腕を回す。
(この時間は、私だけのもの)
噛みしめる幸福。
抱きしめた腕に力が入る――
そのとき。
「ん……夜姫……おはよう」
かすれた声。
瞳はまだ夢の中で、甘えた光だけを宿していた。
「おはようございます、お嬢様」
「もう少し……こうしてて……」
小さな腕が夜姫の背へ回り、
お嬢様の方から抱きしめ返してくる。
(……だめ)
吐息が漏れた。
赤闇が喉までせり上がる。
「お嬢様……朝から、その……」
「なに? 夜姫は嫌なの?」
上目遣いで、柔らかく頬を擦りつけてくる。
呼ばれるだけで、全てを捧げたくなるのに。
――理性が危機。
「嫌では……決して」
夜姫は震える声で答える。
抑え込む力だけが、全身を支配している。
(触れたい
独占したい
誰にも渡したくない)
「……私は今、とても危ういのです。
お嬢様の可愛さは、私の理性を溶かします」
するとお嬢様は、くすりと笑った。
「今日はしらゆきが居ないでしょう?
夜姫のすべてで――抱きしめて」
限界。
「……っ、そんなこと、おっしゃらないでください」
夜姫はお嬢様の額にそっと唇を触れさせ、
自分を落ち着かせるように目を閉じた。
(この方は
私の弱さすら、愉しんでいる)
それでも――
どれほど危うくても――
(守る。愛する。独占する)
夜姫は静かに、しかし強く
お嬢様を抱き寄せた。
「……永遠に」




