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スマホ監視眼

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 へえ~、すごいなあ携帯端末の所持率って、今だと97%に達するんだってさ。

 すごいよね、100人に97人が持っているわけ。もはやどこを歩いても、スマホ持ちにぶつかろう状態。持っていない人のほうがレアなんだよね。

 ほんの15年前は所持率一桁くらいだったとされる。それがここまで普及するなんて、はたから見たらちょっと異常な早さの広がりだと思わない? あまりにみんなのニーズを満たすのに向いているツールだったともいえるが、裏でなにかしらの働きかけがあったのでは? と疑えなくもない。

 疑惑はもたれた時点で、多くのたくらみは失敗だという。それを感じさせずに面白さでごり押しできれば勝てるのだろうが、そうはいかないことも多々あるもんだ。おおいに目立つこともあれば、ひょいと誰かが気付いてしまうことも。

 僕が友達から聞いた話なのだけど、耳へ入れてみないかい?


 その着信音が鳴ったとき、友達は「自分のものか?」と一瞬おもったらしい。

 デフォルトでスマホに入っているもので、特にメロディにこだわりがない人ならば、これに設定したものだろう。

 街中を歩いているときならともかく、今は教室内での会議中。戸を閉め切っていたこともあって、瞬く間に部屋へ音が充満。話し合いの声もぴたりと止んでしまう。

 音は十数秒近く流れ続け、やがて途切れる。


「今、鳴らしたの誰だ」


 教室の隅の椅子に腰かけ、まとめ役をしていた先生の声が響く。答える者はなく、みんな静まりかえっている。友達だって犯人ではないし、名乗り出るいわれはない。

 だが、なかばだらけ気味だった話し合いが、ぴしっと引き締まった気がした。次、同じことが起きたら、先生による強制的な接収が行われてもおかしくない。

 先生はスマホの設定を切り替えるために、取り出すような指示は出していない。そのまままた着信が来てしまったら、予想しているようなことは確実に起こるだろう。こればかりは、ことここに至るまでの日頃の行いによるものとしかいえない。


 結局、クラス内の会議が終わって、帰りのホームルームまでわずかな空き時間となる。

 みんなは慣れた手つきで、次々と荷物の中のスマホたちを確かめていった。友達もまたそのひとりで、画面を点けるや首をかしげた。

 非通知の着信がひとつ。それだけなら、ありえなくもないことだったが、他のみんなから漏れてくる声を聞くに、どうもみんなも非通知の着信を受けたらしい。

 先ほどの会議中の同じタイミングではじまり、同じタイミングで呼ぶ。普通なら不協和音になりそうなところを寸分のずれもなく、まるでひとつの音源であるかのようなふるまいだったのは、鮮明に思い出される。

 おそらく、友達以外も多かれ少なかれ同じようなところを思っていたところで。


 また、非通知。

 教室へあの着信音が響き渡ったが、先のような整然としたものじゃなかった。とっさに着信や電源そのものを切る者、反射的にスマホを放り出す者、関係ないが騒ぐ者。前回と違い、自由な選択がとれるがゆえに、かもされる落ち着きない雰囲気。

 友達はすぐ着信を切った派だった。その後、スマホの電源そのものも落とし、うんともすんともいわない状態へ持っていく。他のみんなも伊達にスマホを日ごろいじっているわけでもなく、落ち着くまでに時間はかからなかったそうだ。

 こうして電源を切ってしまえば音が鳴り出さないあたり、どうもオカルトじみたものではないのかも、とみんなは思い始めたものの、別の方面で怖くなってくる。

 非通知ゆえにどこが発信源か分からないし、詐欺などが横行している中、見知らぬ番号に応対する危うさはみんなが承知しているところ。正体を確かめようと、かけ直したが最後、相手の思うつぼという恐れもある。

 が、こうも一斉のタイミングでかけられるものだろうか。しかもクラス中のスマホをほぼ同時に、となると学校という限られたコミュニティにいる自分たちの番号を把握できているというわけだ。


 犯人は学校内の知人、それも大多数のグループなのか?

 ホームルームの後に、そうざわつき出すみんなだったが、いとこは興味なく教室を後にしたのだそうだ。犯人捜しよりも、迷惑をかけられないことのほうが大事だし、スマホのブロック設定なりを改めようと思ったらしい。

 で、気づいたのが、スマホ本体が妙に熱を持っている、ということだった。ちょうど買い替えてから間もない時期だし、これでバッテリーの寿命だったらハズレくじがすぎる。

 学校にいる間は、帰りのホームルーム前以外をのぞいていじっていないし、勝手に起動するようなアプリも入れていないはずだ。

 不思議がりながら手に持っている間にも、少しずつ熱は高まっていくような心地がする。ひとまず今日一日は様子を見るかと、家に帰ると自室の机の上へ放り出した友達。

 そばの窓も網戸にして、外から入る風で自然に冷やす手伝いになるかと思ったらしい。ニュースでも見たような、バッテリーが火を噴くなんてことは起こらないだろう……起こらないよな?


 そう願いながら、夕飯を食べるためいったんは部屋を後にした友達。

 そして部屋へ戻ってきたとき、ちょっと想像外のものを見てしまったんだ。

 机の上のスマホに、蚊がとまっていたらしい。画面のてっぺん、電源スイッチなどが並んでいるあたりに、身体を下ろしている。

 その大きさも、都会の中で見るにしてはやたら大きかったが、それだけじゃなく、その蚊はスマホに口の針を突き立てていたらしいのさ。

 血を吸うならば、赤く膨れるだろう腹が、銀色に光っていたとか。瞬時にスマホへ害なすものと思ったし、友達は駆け寄ってぶっ叩こうとしたようだが、蚊はすぐに気配を察知。間合いを詰めるより先に飛び立って、網戸のわずかな破れ目から器用に抜け出し、飛び去っていったらしい。

 逃がしたものは仕方ない。友達はすぐさまスマホを確かめ、機能に異常がないことで一安心。本体の熱もすっかり下がっており、またぶり返すこともなかったそうなんだ。


 翌日。

 あの蚊らしきものが、クラスのみんなのところにも現れたらしいことを聞く。全員のところではなく、友達と同じようにスマホ本体が熱くなる症状を見せた人のみだ。

 これに関してはただ一人の漏れもいなかった。そして熱を持たなかったスマホの持ち主は誰一人として蚊を見かけることはなかったのだそうだ。

 友達はあの非通知は「探り」を入れるもので、あの熱をひり出すのが目的なんじゃないかと思っているらしい。蚊そのものか、あるいは蚊の背後にいるやつは、熱の原因たるものを欲していて、それがああいう銀色になってあらわれたんじゃないか、と。

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