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第7話:最初の「不運」な訪問者


その日は、どこにでもあるような、穏やかな放課後だった。

ホームルームが終わり、教室のあちこちで「また明日」という声が飛び交う。俺も例に漏れず、さっさと帰宅して昨日のアニメの続きを見ようと、鞄に教科書を詰め込んでいた。


その、瞬間だった。


校庭の方から、女子生徒の短い悲鳴が聞こえた。

一度ではない。次々と、パニックを含んだ声が連鎖していく。教室の窓際にいた生徒たちが、一斉に「え、何あれ!?」とざわめき始めた。


「……面倒な」


俺は舌打ちしつつも、仕方なく窓の外に目を向けた。

そして、我が目を疑った。


夕日に染まる校庭の真ん中に、ソレはいた。

体長は2メートルほど。黒曜石のような体毛に覆われ、爛々と赤く輝く双眸を持つ、巨大な狼。その口からは、ありえないほど鋭い牙が覗いている。


影狼シャドウウルフ……!」


前世では、魔王軍の斥候としても使われないほどの、最下級の雑魚魔物。だが、ここは平和な日本だ。銃刀法で厳しく規制されたこの国において、牙と爪を持つ肉食獣は、それだけで十分すぎるほどの脅威となり得る。


生徒たちが悲鳴を上げて校舎に逃げ込んでくる。そのパニックが、影狼をさらに興奮させているようだった。グルルル、と低い唸り声を上げ、次なる獲物を探してぎらついた視線を彷徨わせている。


「……逃げるか」


俺の最優先事項は、平穏な日常の維持。そして、そのためには目立たないことが鉄則だ。ここで魔物をどうこうすれば、間違いなく騒ぎの中心人物になってしまう。関わるべきじゃない。


そう判断し、踵を返そうとした、その時。


俺の視界の端に、校庭に取り残された人影が映った。

一人、二人……まだ数人の生徒が、恐怖で足がすくんで動けなくなっている。

そして、その中に。


「……桜庭さん」


クラスメイトの、桜庭咲良がいた。

彼女は他の生徒を庇うように立ち、恐怖に顔をこわばらせながらも、鋭い視線でじっと影狼を睨みつけていた。


俺の足が、縫い付けられたように動かなくなった。

頭の中では、サイレンのように警報が鳴り響いている。

『関わるな』『逃げろ』『目立つな』


だが、心の奥底で、もう一人の自分が囁くのだ。

『見殺しにするのか?』


前世、守れなかった仲間たちの顔が、脳裏をよぎる。あの時の無力感と後悔が、トラウマとなって蘇る。


「……ちくしょうが」


俺は悪態をつきながら、誰もいない廊下の物陰に身を隠した。

見て見ぬふりなど、最初から出来るはずもなかったのだ。


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