表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/65

第6話:都市の囁き、異界の気配


あれから数週間。俺の望んだ通りの、完璧に平穏な日々が続いていた。

転校生という立場もすっかり薄れ、クラスにも馴染み、友人と馬鹿な話で笑い、退屈な授業をやり過ごす。そんな日常は、かつて俺が夢見た理想そのものだった。


しかし、水面下では、何かが静かに、そして確実に変わり始めていた。


最初は、本当に些細なことだった。

ネットのニュースサイトの片隅に、以前よりも頻繁に「原因不明の空間異常」という記事が載るようになった。最初は関東近郊だけだったその報告は、やがて俺の住む街の名前と共に語られるようになった。

「市内、廃工場地帯でまたもや空間の揺らぎを観測」

そんな見出しが、俺のスマートフォンに表示される頻度が、日に日に増していく。


オカルト系のネット掲示板は、まさにお祭り騒ぎだった。

『〇〇町の裏路地、マジでヤバい。空気がドロっとしてる』

『廃ビルの窓、誰もいないはずなのに人影が見えるって噂』

『これ、もうゲート開いちゃってるだろ』


「くだらない」

俺はそう吐き捨てて、ブラウザを閉じる。だが、心のどこかで、無視できないざわめきが広がっていくのを感じていた。


街を歩いていても、その気配は感じられた。

放課後、いつものように家に直行していると、ふと、空気が澱んでいるように感じることがある。まるで、見えないフィルターが一枚かかったかのような、微かな違和感。


魔力感知マナセンス


俺の意思とは関係なく、体内の微弱な魔力が、アンテナのように周囲の情報を拾ってしまうのだ。


「なんだ? 微かに虫の羽音のような……いや、耳鳴りか?」


それは、前世で感じていた魔力の波動に酷似していた。ごくごく薄く、希釈されてはいるが、本質は同じ。異質なものが、この世界に混じり始めている証左。


「……気のせいだ。俺には関係ない」


俺は必死に自分に言い聞かせる。

そうだ、関係ない。俺はもう賢者じゃない。ただの高校生だ。世界の危機なんて、誰か他の、然るべき人間が対処すればいい。俺の仕事じゃない。


俺の望みは、ただ平穏なだけなのだ。

その小さな願いを、邪魔するものは何であろうと、俺は決して認めない。


そう固く誓いながらも、俺の眉間に刻まれた皺は、なかなか消えてはくれなかった。街に漂う不穏な囁きは、確実に俺の心を蝕み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ