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第7話 フランの部屋にて

 私はフランに抱えられたまま、しばらく呆然としていたようだ。

 気がついた時にはフランの部屋の前にいた。物言わず自室の扉を、手も使わず開け放ち飛翔(ウイング)の呪文を解き私と共に部屋へと颯爽と舞い降りる。

 

 そのままソファーに私を下ろし、羽織っていたローブを脱ぐ。

 

沈黙(サイレス)

 

 手から放たれた魔法は白い霧を一瞬出した後にパキン、と音をたてて部屋全体へ広がり霧散していく。確かにコレなら外部へと音が漏れることはなさそうだ。

 

 私は見慣れぬ部屋をぐるりと見渡す。

 独特の香りが鼻に届く。植物とも花ともとれる、いい香りだ。そう、白い花のあの植物――。


 彼のローブには独特の香りがついていると思っていたけれども、きっとこの白い花なのだろう。そこそこ整頓された部屋で、大きな机には小さな観葉植物と――羽ペンと黒のインクボトル。座っているソファーの後ろには大きな本棚がそびえている。しかもぎっしりと本は隙間なく詰まっていた。

 

 そういえば、貴族や家によって寮の部屋の大きさが違うときいた。ベッドと机のみの狭い私の箱部屋が、いくつも収まってしまいそうな広さ。羨ましいような、くやしいような感覚に襲われる。

 

「ミラ」

 

 ぎし、と軋む音をたてソファーの真横に座ったフランに対し、少しだけ私は身を固くした。

 

 ……この距離感は落ち着かない。

 そもそもなぜここに連れてこられたのか。他のクラスの人たちが集まっていたあの場から逃げたかったのは同意だけれど。

 

癒し(ヒール)するから手を出せ」

 

 いわれて自分がはじめて、手のひらから血を出していたことを知る。それまで痛くなかったのに、視界に入れるとじんじんと痛む。


「……痛い」

「だろうな。というより、思ったより深いな」

 

 フランの大きな手が私の手の平を掴み取る。触れた箇所の熱が、一気に全身に広がっていく。

 こうしてみると、てっきり細い指だと思い込んでいたが実はそうではなく、とても指が長く骨ばっているようだ。触れられている、と強く感じると余計に意識してしまう。すると銀色の髪が私の頬に当たり、隙間から覗き込むような視線が一瞬だけ絡み合った。

 

 まっすぐに私の瞳を見返すフランは真剣な表情で、思わず私は目を伏せる。

 そうとう挙動不審に見えただろう。フランは気にしていないのか、どうなのか無理くり頬に手を添えられ私は横を向かされる。


「手は終わった、顔は」


 低めな声が耳に届くと吐息が耳にかかり、気にするなという方が無理だ。耳だけではすまない、空気までもが暑く感じる。それどころか、触れている箇所全てが気になってきた。

 

 私がアレコレ考えている間にすでに癒し(ヒール)は完了していたようで、手の痛みはあっという間に消えている。その辺りは流石というべきなのだろうけれども。

 

 涼しい顔をするフランに比べ、私の顔は完全に赤くなってしまっているのかもしれない。そう思うとかなり(しゃく)だ。意識するなと思えば思うほどに墓穴を掘っている気がしてならない。

 頬に添えられた手がふいに首に触れた時点で、すでに心臓が今まで以上の音を奏でている気がする。


「顔なんて別に怪我してないわ」

 

 触れられた手を振り切るように首を回すが、結局は振り払いきれなかった。むしろ暴れるほどに距離を詰められた気すらして、後悔が増す。


「あんだけ泣いてたんだから、目が腫れてるだろ。こういうのって癒し(ヒール)で治るのか……?」

「治すなら、早く治してちょうだい」

 

 そういって、ならばフランを視界に入れなきゃいいのだと判断し、私はひとまず瞳を閉じた。 早く終われと念じていると数秒もたたずに目の野暮ったい感じがひいていく感じがする。


 手がようやく離れ、少しだけ荒れた指は私の唇をゆっくりと何かを確かめるようになぞる。


 さきほどとは違ってちょっと癒し(ヒール)に時間がかかっているような……。

 フランの息が一瞬止まった気配がして、私から大きく離れた。なにごとかと私はそろそろと目を開ける。

 

「なによ? もしかして私の顔にでも見惚れてた?」

「いや別に……余分なことを話す口はコレなんだなと笑いをこらえてた」

 

 気まずい空気をぶち壊すためにいった言葉を皮肉で返すとは。

 この男こそ、どうあっても減らない口のようだ。

 思わず張り倒したくなる気持ちを堪える。


「治してくれてありがとう。とりあえず用が終わったなら帰るわ」

「……待て、まだだ。それで? これからどうするつもりだ?」

「そう、確かに途中だったわね。あなたのいう一緒に、ってなに。これから一緒に戦いましょって話?」

「――滅多に出没しないが、全力で探せばなんとかなるだろ。俺よりも対魔物戦の知識をお前は蓄えているなら、他の知らない魔物に対しても対応できるかもしれない。それに、俺としては――いや、いい。それに加えて自身で強くなるように努力するならば手を貸してやろう」


 ずいぶんと偉そうにいうが、彼の負担を考えれば仕方ないだろう。

  

「つまり、今後アナタがご丁寧に実戦を教えてくれるわけ?」

「足手まといにならないならな」

「対価は?」

「別に何も」

「割に合わないわね……私がアナタなら断ってる。それなら私から条件を提示するわ……あなたの代わりに私がダメージを負う……要するに()とかどう?」

「……」

 

 フランはいつものように眉間に皺をよせながら、一瞬だけ私を見た。

 

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