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第5話 フラン編 サウザンドラゴン①

「フォレスティナ=アレス……」

 

 俺は記憶を手繰り寄せる。

 歴史に名を残す不敗、いや無敗だった名軍師アレス。

 いたるところで活躍し、対敵戦術で彼の右に出るものはいないほどの計算高い軍師。あらゆる手を用いて魔物たちをことごとく沈めた伝説の男。

 

 ただ息子夫婦はサウザンドラゴンに殺され、それを討つために本人が倒すために出撃したところで命を……。唯一の肉親として、孫が一人残されたと聞いたことがある。

 

 ミラは入学当時の紹介で、苗字が一緒だとからかわれていたっけ。でも魔術の弱さから、誰も気づかなかった。まったく想定もされず、むしろあり得ないだろうと信じようとしなかった。本人もなにひとつ自慢すらしていなかったし。


 いや、不敗の軍師アレスの名を冠した孫だと、知られたくなかったのかもしれない。それならば事実かどうかを聞かなければならないし、孫ならば俺はミラにいわなくちゃいけないことがある。

 

 授業が終わり、ミラに声をかけ隣の教室へと呼び出した。

 わかりやすいくらいに嫌そうな表情を浮かべるミラをクラスメイトから引き離すように無理くり連れ出し、空いたクラスへと移った。今、このクラスのものたちは移動教室でしばらく戻ってこないはずだ。


 がらんどうになった教室に対峙し、ストレートに投げかけた。

  

「ミラは賢者アレスの孫なのか?」

 

 そよそよと光が差し込む窓辺に立っていたミラは、カーテンの縁を少しだけ握る。

 回答をどうしようか、迷っているという雰囲気で。

 やがて「そうよ」と小声でいった。


「お前みたいなのがとか、そうみえないとか、そういうのは聞きたくない。話はそれだけ?」

「いや、そういう話がしたいわけじゃない」


 俺は伝えなきゃいけない。アレスの孫に、ミラに。

 

「アレスは俺の命の恩人だ。『炎の日』で、アレスに助けられた。お前が孫ならありがとう、とひとこと礼をいわせてほしかったし」

「おじいちゃんがたくさんの人を救ったのは知ってるし、その度にいちいちお礼をいわれても困るから気にしないで」

「機嫌が悪いな」

「『炎の日』に関しては思い出したくないだけよ」

「どうして」

「別にどうだっていいでしょう。あなたに関係ないじゃない」

「でも、孫なんだろ? あの日のことは――それに、なんだって黙ってたんだ。なんでアレスは死んだんだ、どうやって――」


 俺のひとことで、ミラははっきりと俺の方へと顔を上げた。


「……さっきからうるさいわね」

 

 そのまま消え入りそうな、か細い声で俺を潤んだ瞳で睨む。

 

「――おじいちゃんが死んだのは私のせいよ! これで満足!? それに、孫、孫ってうるさいわね! どうせ私は自慢できるような……孫じゃ、ないわ!!」

 やがて堰切ったように、ミラの瞳からぼろぼろと涙が溢れて出してくる。

 

「父も母も、祖父まで奪ったサウザンドラゴンは憎いわ。でも、一番憎いのは私よ! 仇を討てない私! 誰にもまともに勝てるほどの実力がない私自身よ‼」

 

 魂から叫ぶような声に俺は動揺を隠せない。


「引き取られた親戚の家でこんな程度の魔力しかない子はいらないっていわれたわ! アレスの孫だなんて、嘘だろうって、私の代わりに死んだおじいちゃんが可哀想って、何度いわれたか! 必死で努力してこの寮に入るまでずっとよ! 本なんて貪るように読んでやっとよ!」

 

 そうしてから、わあっと声にもならぬ声をだし、今までからのミラからは想像できない。頭を抱えて泣いていた。


「親戚がそうなら、他人なんてもっとキツくいうわ……なんでお前が死ななかったんだ、って。おじいちゃんがこの学校に入って欲しいっていうからなんとか切り詰めて必死で節約して頑張ったのに……どれだけ入学から机にしがみついて勉強しても頑張っても、魔力で成果なんて出せない。頑張っているのに、まだ頑張れ、まだだっていわれて。ふざけないで! これだけやっても、まだ足りないの!? 食いしばっても結果が出せなくて、じゃあどうすればいいのよ! お金だって学費でカツカツで、おじいちゃんのピンバッジだってずっと欲しかったのに――それすら買えない! あなたに、私の気持ちがわかる? 買いたくても我慢するしかなかった私の気持ちがわかる!? 恵まれた環境にいて、恵まれた才能にあふれたあなたの話なんか――聞きたくもないわ!」

 

 あの強気で勝気で実力がないのに負けん気だけは強いミラが、こうも取り乱し泣きじゃくるとは思わなかった。教室では笑顔と怒り顔しか見せないミラが。

 

「どうして私はあなたほどの魔力がなかったの⁉ どうしてまともに誰にも勝てないの――あんたなんか大嫌いよ……!」


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