1-54.小さな矜持
灰青色の流紋岩カウンターが、天井灯の白熱を吸い、鈍い光となって返していた。艶を帯びたその天板へ、ルガーは一枚の紙を滑らせるように置く。額面が書き込まれた、支払証明書だった。
「待たせた。ほら、額を確認してくれ」
「おお。144万ギン! 50どこじゃないな!」
「おたくの提供してくれた地点は、ちょうど調査依頼が出てたんだ。リクセンの目撃あり、落下事故あり。重殻機兵隊を派遣するかどうかって検討中、かつ危険地帯認定までされていた。その上、この情報で予想を遥かに上回るとんでも戦力がいると判明。出会い頭の大損害を事前に回避できた――って寸法で、割増し。このお値段ってことさ」
「わかった。で、この金はどこで受け取るんだ?」
支払証明書を、グエンはジャケットの内ポケットへ収めた。
その背後で、控えていたデラダンが一歩踏み出し、会話に割って入る。
「そいつはアッシが案内しやすぜ!」
「って、ことだ。また良いネタがあったら寄ってくれ。あと、石っころの買い取りは他で。うちは情報専門問屋だ」
「そいつもアッシが案内しやすぜ!」
「そうか、世話になった。また頼むよ」
「あいよ」
ルガーは葉巻を咥え、火をつけながら小さく手を振った。
グエンも右手を上げて応えると、デラダンの肩を軽く叩き、カウンターに背を向ける。
デラダンは前に回り込み、来た道とは反対方向を指さした。
「ささっ! 次は石っすよ! 石! ペリドットを売りやしょう!」
ペリドットの塊を載せた台車を押し、デラダンは歩き出す。
彼を先頭に、グエン、キト、エリエラが続いた。
「あ、石と言えば」
デラダンのすぐ後ろで、グエンは腰ベルトのポーチをまさぐる。
拳ほどの塊を取り出し、手の平に乗せて見せた。
その手に現れたのは、光を呑み込むような碧銀色の塊だった。
デラダンは振り向き、一瞬、動きを止める。
「へ? ……へ?」
「これも売れるか? リクセンの核っぽいんだが」
「ぬ、ぬおおお! ア、アニキ、こ、こいつぁ!」
慌てたデラダンは反射的に身を乗り出し、獲物を狩る蛇のように素早く両手を伸ばすと、グエンの手ごと包み込み、碧銀核を人目から隠した。
ルガーは事情を理解し笑っているが、デラダンは真剣な表情で声を潜め、続ける。
「ア、アニキ! こんなもんうかつに見せたら、あっちゅう間に盗まれやすぜ!」
「え? これ、高いのか?」
「バラバラになってねえ核なんて、はじめて見やした」
「ボ、ボクもはじめて見た」
「わたくしを呼ぶ声はもうしませんが、価値のありそうなものですね」
大きな手に守られた碧銀核を見て、キトとエリエラも言葉を添える。
ルガーも意味知り顔で大きく頷き、自分の仕事へ戻った。
彼らの反応に、グエンの胸の内で期待が膨らんだ。
「……ちなみに、いくらぐらいだ?」
「い、いや、あっしも見たの初めてなんで、見当もつかねえっす。それに、こいつを売ろうとすると、ここじゃ無理っすよ」
「無理? 売るためにここに来たんだろ? ムロージ商会の支店に」
「そうなんすけど。実は」
「あ、あの」
デラダンとグエンの間に、キトが割って入った。
文字通り二人の間に立ち、顔を見上げる。
「ぼ、ぼくが知ってるよ」
「ん?」
「んお?」
キトはおもむろに手を伸ばし、デラダンの両手を開かせ、さらにグエンの手を開く。
碧銀核を両手で大事に包み込み、見上げて二人と目を合わせた。
「ぼ、ぼく、ガイドだから。こ、こっち」
小さな手で碧銀核をぎゅっと握ったまま、歩き出す。
グエンとデラダンは顔を見合わせ、キトの背を追って足を運んだ。
事態を飲み込めない二人の後ろで、エリエラがそっと告げる。
「キトさん、ガイドの仕事を取られてしまうと、心配なのではないでしょうか」
「……ああ、そうか」
グエンがキトを仲間にと声をかけた際の誘い文句が、「専属ガイド契約」だ。
グエンは横に並ぶデラダンを見て、小さく頷く。
台車を引く巨躯の男は、デッキブラシのような顎髭を掻き、太い首を傾げた。
「へ? あっしですかい? なにかしやしたか?」
「ガイドだからな、キトは」
「ふふふ、そうですね」
「エリエラ、よく気づいてくれたよ」
「アニキ? 姐さん?」
三人は、小さな案内人の背を追って歩く。
誇らしげに立つ小さな尻尾が、言葉より雄弁に彼の心中を語っていた。




