1-26.クエスタ登録手続き② 年代ギャップ
ほどなくして、ユイナは自身のジャケットのポケットから、液晶画面のついた手のひらサイズの情報端末を取り出す。
「私物ですが……こちらがモバイルです」
「ああ、持っていないな。これは普通なら持っていなければいけないものなのか?」
「い、いえ、必ずとまでは……。通話をしたり、内部ネットを介してクエスタの活動にも運用できる、大変便利なものですから。中には持っていない方も、いらっしゃるかと……」
ユイナは液晶画面を軽く撫で、操作の様子を見せた。
グエンの視線は、彼女の手元へ吸い寄せられるように張り付く。
モバイルの画面にクエスタのエンブレムが表示された。
「ほう、こんなに小さいのにか……。しかも画面を触って操作できると、すごいな……。で、活動に運用ってことは、その小さな画面で依頼を受けたりもできるのかな?」
「あ、はい。こちらのようなクエスタで配布されているアプリというものを入れておけば、モバイルから依頼受注や、報酬の確認・報告など様々な対応が可能になります。このように」
ユイナが開いて見せる依頼情報の画面に、グエンが感嘆の声を漏らす。
「へえ、便利なもんだ……いや、すごい。採掘された金属の相場まで。ほお、小さいくせにやるなモバイル」
グエンのモバイルに対する反応に、ユイナは困惑した。
そのモバイルは、本部ではすでに旧式の部類だった。
現場用か、個人が手元に残す程度にしか使われない。角は擦れ、表面には細かな傷が走っている。
グエンは好奇心いっぱいの笑顔で訊ねた。
「ユイナさん、ここで買えたりするのかな? このモバイルというのは」
「え、ええ、あ、はい。モバイルでしたら、隊員用に無償で支給可能です。また、有料になりますが別のタイプもあります。グラスタイプ、ピアス、リング、ネックレスなど」
「んん? グラス? ピアス? それでどうやって手に持って操作するんだ?」
「手で持つ必要はありません。ちょうどグラスタイプは持っています」
やや困惑気味のユイナは、ジャケットスーツの胸ポケットから眼鏡を取り出す。
彼女は眼鏡全体を見せながら、言葉を選ぶように説明を始めた。
ユイナにとって、こうしたガジェットの説明を一から行うのは初めての経験だった。
何故なら、グエンのように『モバイルを知らない人間』と接する機会が無かったからだ。
「グラスタイプはこのように、一見して通常の眼鏡と変わりありません。グラスタイプは本部職員に一番普及しているタイプです。こう、かけますと、レンズの内側に画面が映っています」
「レンズに画面? 俺からは何も見えないが」
「内側をご覧ください」
そういうと、眼鏡をかけたユイナは横を向いて見せた。
グエンは彼女がかけた眼鏡のレンズに注目する。
「お! 本当だ、レンズの内側になんか映っている。正面から見えないのに不思議なもんだな……いや、待て。それでどうやって操作するんだ?」
「あ、はい。メガネタイプは脳波で操作できます。画面をノックすると……あ、脳波で画面を触れることを、クリックではなくノックと言います。操作は主にノックで行うので、手を使う必要はありません」
「の、脳波? ノック? これはまた……」
狼狽えるグエンをよそに、ユイナはレンズの内側が見えるように横を向いて見せた。
レンズの内側では、画面が目まぐるしく切り替わっていた。
触れていないのに変わる――その事実が、理解より先に背筋を冷やす。
(なんか少し進んでるなーぐらいの印象だったが……50年ってのはでかいな……この技術進歩も重銀の影響なんだろうか……)
呆然としているグエンをよそに、ユイナはパッドを取り出し、グエンに画面を見せる。
パッドの画面は触れてもいないのに何度も切り替わっていった。
液晶画面に、指輪が映し出された。
「こちらがリングタイプです。リングやピアス、ネックレスタイプですと、グラスタイプとは別に、耳たぶにチップを埋め込む施術が必要となります」
「……ん? 耳たぶに、チップ?」
「はい、チップと言っても注射器で注入できますので、30分もあれば終わります」
「いや、なんでチップなんて耳たぶに?」
「? チップが無ければ、網膜に画像を投影できませんので」
「……網膜って、目のこと? 目に画面が映ると」
「はい。私はチップにアレルギーが出るのでやっていませんが、定期健診のタイミングでチップを更新しなければいけないので、少し手間がかかるのがネックですね」
「しかもアレルギーまで……!?」
「はい」
「恐ろしいな……」
「そうですか? 技術的にはすでに確立されていますよ」
「いや、そうだとしても得体が知れないというか」
「私から見れば、所構わずに火を出すグエンさんの方が得体が知れず、恐ろしいですが」
「い、いや……それはすまない」
めまぐるしく動くパッドの画面には、チップ注入の施術写真や、リスク、メンテナンスや追加オプションなどが表示されていった。
「ご要望があれば、追加オプションの詳細もご案内できます。どういたしますか?」
「な、なるほどお。なんか基本的なので……」
理解の及ばぬ内容で、グエンの目はすべり、ユイナの丁寧な解説も何も頭に入らない。
「なんか……難しそうだから、モバイルでお願いしちゃおっかな……」
「そうですか? では、支給用のモバイルをお持ちしますので、少々おまちください。認証等も一緒に済ませておきましょう」
「……ありがとう。楽しみに待っているよ」
席を立ったユイナはグエンに会釈すると、壁側にある窓口へと足早に向かった。
(なんか、すごいな今は。色々と圧倒されたぞ……)
ユイナの背を見送ったグエンは、テーブルに残されたパッドを手に取り、液晶画面をつつく。




