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世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
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1-25.クエスタ登録手続き①

 ユイナはエントランスホールの一角へとグエンを案内した。

 ガラスのテーブルを囲んでコの字に椅子が並んだ席に2人は腰を下ろす。

 正面に着席したユイナは、いくつかの書類を広げて見せた。


「まずは、クエスタ隊員としての職務規定からご説明いたします」


 そういうと、ユイナは準備していた資料を読み上げていく。

 クエスタの規模や沿革を簡単に述べ、待遇や報酬などの説明を終えると、ユイナは書類を封筒に一まとめにした。そして、最後に登録書類をグエンに差し出す。

 渡された書面に目を通し、グエンはペンを走らせる。


「この記入を済ませれば、俺はすぐにクエスタ隊員として活動できるのかな?」

「はい。本来であれば、外部からの方は準隊員扱いですが、グエンさんは正規隊員として登録されます。何か質問はありますか?」

「そうだな、確認しておきたいのは報酬か。準隊員は完全に歩合制、正規隊員から固定給20万ギン+歩合って理解でいいのかな?」

「はい、その通りです。通常であれば、内勤者以外であれば、まずは大隧道内が主な活動場所になります。グエンさんの場合は、エリエラさんの護衛をしながら、個別で発生する依頼を受けていただくことになります。都度提示された報酬額をお受け取りください。依頼の受注と報告、および支払いは本部でも行えますし、大隧道内の拠点ノマドベースでも対応可能です」

「大隧道の中に拠点があるのか。俺が思っていたよりも規模がでかいみたいだ」

「グエンさんであれば、危険性の高い依頼でも問題ないでしょうから、すぐにでも高額の依頼を完遂できると思います。ただ、正規隊員は、通常は4人1チームを原則としています」

「4人のチーム? 俺は1人で十分だが」


 グエンの言葉を受け、ユイナは彼の眼をまっすぐ見つめ返して首を横に振る。


「これは規則ですので。隊員の生存率、業務の成功率や効率を含めて設定された合理的な人数です。グエンさんだけ特別に1人というわけにはまいりません」

「他の人間が増えても、足手まといになるだけだ」

「もし現場でほかの隊員を救助する際、1人ですべてを賄えますか?」

「……確かに、敵を倒すか、助けるか、1人で手が回らない部分もあるか。連絡やらも必要になるかもしれないし……」

「客観的で正確なご意見です」


 頬杖をつき、ほんのひと時考え込んだがグエンだが、ユイナの言い分のほうが正しいと考え直し、姿勢を正して頷いた。


「わかった。いい感じのメンバーを探してみるよ。勝手に探せばいいのかな?」

「ノマドベースで隊員同士のチーム編成を斡旋するサービスも行っています。それ以外でも、個人同士で登録していただいでも構いません。ただ、隊員の中には傭兵崩れのような人物もいますので、くれぐれも穏便に、不要な戦闘行為はお控え願います」


 書類に記入を進め、最後の記入欄を確認しながらグエンは答えた。


「穏便に済ませるよ。俺も無用な戦闘は好まない」

「そう願います。……グエンさんは乱暴です」


 グエンの文字を書く手がピタリと止まり、ユイナの顔色を窺いみる。


「え、そ、そうか? 普通だと思うが……」

「普通とはどういう状態を指しているのでしょうか。突然刃物を抜いて人に向けたり、人を脅すのは普通とは申しません。本部内におけるあのような戦闘行為は許可を必要とする事態であり、そもそもテーブルに土足で登るのは無作法な振る舞いです」


 言葉こそ丁寧だが、ユイナの語気は強く迫力があった。

 彼女の怒りを買ってしまったかとグエンは肩をすぼめる。


「た、確かに俺は感覚がずれているみたいだ。気を付けるよ」


 しおらしいグエンの反応に、ユイナは咳払いをして言葉を濁した。


「あ、いえ、おかしいとまでは。おかしいと言うより……」

「と、言うより?」

「……もっと上の年代の方に似ているかもしれません。エンブラとの戦争を経験しているあたりの……あ、ヒッジス本部長のような世代の雰囲気があるかもしれません」


 世代という単語にグエンの眉が動いたが、ユイナは特に気にしていない。


「……そうか。若者らしくかつ穏便に振る舞うように気を付けるよ」


 グエンは記載を終えてユイナに書類を手渡す。

 記載された内容を確認しながら、ユイナは会話を続けた。


「クエスタ隊員として職務にあたられる場合は、重々お気を付けください。依頼される内容によっては、外部との折衝もありますので……。はい、書類はこれで問題ありません」


 何度も確認を繰り返したユイナは書類を手元のファイルに納めると、液晶画面付きのパッド端末をテーブルに置いた。


「登録に関する手続きは完了いたしました。次はグエンさんがお持ちのモバイルと、クエスタ側の情報を共有させていただきます。こちらのパッドとモバイルをリンクさせれば数分で完了いたしますので。リンクさせますと本部システムとの紐づけによって、モバイルはもちろん、エンブレム型やリング型などの認証端末で報酬の引き下ろしなども可能になります。よろしければ、時間短縮のため私が操作いたしますが、いかがでしょうか」


 ユイナは説明を述べつつパッドを起動させると、モバイルを受け取るために手を差し出した。

 彼女の差し出した手をまじまじと見つめてグエンは首を傾げる。


「モバイル? とは? あと、紐づけというのは何の話だ?」


 意味の通じていない彼の様子にユイナは固まる。


「え? えっと、グエンさん、モバイルはお持ちではありませんか?」

「だから、モバイルというのはどういうもの? その情報端末の類かな? 照合に使っているってのはなんとなくわかっていたけど、それはどういうものなんだい?」

「え?」

「え?」


 ユイナは差し出していた手をゆっくりと戻す。

 グエンとユイナはしばし見つめ合った。

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