0-28.紅怨の男
星一つ見えない曇天の夜。
古代人が眠る、闇に支配された石造りのクロイド遺構。
エンブラ兵たちは、その居住区跡地内で、一人のアウルカ人を追い込んでいた。
ライトに照らされた狭い通路で、銃声と怒号が反響する。
「そっちへ行ったぞ!」
「俺の方じゃねえ!」
「どこだ! 早すぎて……ひい!」
片麻岩の美しい縞模様を、エンブラ兵の血しぶきが汚していく。
クロイド遺構の居住区通路は狭い。
一人の敵を追い詰めたはずの兵たちが、逆に一人、また一人と倒れていった。
「いたぞ! 上だ! 壁の上だ!」
屋根を失い、ただの石壁となった外壁の上に、刀を握るグエンが立っていた。
頬には火焔紋様が浮かび、右手に握られた濡焔は、蒼氷の如き、クリアブルーの刃を宿している。
透き通る刀身から、エンブラ兵の血が静かに滴っていた。
兵が銃口を向けるよりも早く、グエンの姿は闇に溶ける。
背後から、頭上から、時には銃弾を掻い潜り、一刀のもとに兵士を切り伏せていった。
七十人を超えたあたりで、グエンは数を数えるのをやめていた。
頬に浮かぶ火焔紋様とその瞳は、闇夜に灯る熾火のように燃え、赤い光の尾を引く。
「赤毛の入れ墨! ここだ! ……クソ! もういねえ!」
仲間が殺された瞬間、火焔紋様の残光を捉えた兵が叫ぶ。
だが次の瞬間、グエンは超人的な跳躍力で、2mを超える石壁を駆け上がり、別の兵士二人へと襲いかかっていた。
異変に気づいた兵士が、背にした壁を見上げる。
「ひっ! 人間の動きじゃねえ! なんで! あ」
音もなく降り立ったグエンの濡焔が、兵士の肩口からその体を両断する。
「貴様! よくも仲間を!」
もう一人のエンブラ兵がサーベルを抜き、斬りかかった。
頭部を狙って振り下ろされる刃。
対峙したグエンも、同じ軌道で濡焔を振り下ろす。
クリアブルーの刃は、葦の葉を払うようにサーベルの剣身を断ち切り、兵士ごと両断した。
崩れ落ちるエンブラ兵を見下ろし、グエンは呟く。
「カガミはもういない……エンブラ兵は皆殺しだ……なあ、ユーゴ」
流れる雲に切れ間が生じ、月明かりがクロイド遺構を照らす。
その光に晒され、グエンは空を見上げた。
裂けた曇天の向こう、星空から、色とりどりの流星が降り注いでいた。




