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世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第0章 ゴカ殲滅戦
13/71

0-13.タマルリアゲハ①

 ここ護国王は標高約2,500m、じりじりと登る太陽はちょうど目の高さ。

 温もりを感じさせる朝日が、暑さを振りまく昼の陽ざしへと変わり始める。

 デザートを食べ終えた三人は、広場の奥へと歩いていた。


「コテツはいつもの掃除に行くとこ?」

「そうだなあ、カガミとクレープも食べたし」

「今日のトレーニングいいの?」

「……ノダナ族を運んで疲れたから、今日はいいかなーって思ってたとこ」


 ユーゴが片方の眉を跳ね上げ、わざとらしくコテツの顔を覗き込む。


「体力に能力全振りのコテツ君がトレーニングさぼっていいのかい? ゴカ村を守るユニオン隊員なのに、体が鈍ってたら困るんだよなあ」

「なぬ! 誰が鈍るって!」


 ふざけ半分の挑発なのは明白だったが、それを真に受けるのがコテツ。

 コテツは腰の刀を鞘ごと抜くと、両手で柄を握り、地面に突き立てた。


「見せてやるぜ! 俺の身体能力の高さを!」


 刀の柄を順手で握ったまま、コテツは足ごと体を浮かせる。

 刀だけを支えにして、逆立ち立ちをして見せると、勝ち誇った声で叫ぶ。


「これが俺の編み出した逆さ剣立てだ! すげえだろ!」


 突然のパフォーマンスにユーゴは慌てた。

 隊長として立場のあるユーゴにとって、隊員服のままで人目を集めるコテツの行為は笑い事ではない。


「ちょ、ちょ、いきなり何してんのさ!」


 突然のことに通りすがりの観光客たちも驚いていたが、すぐに観光地特有の大道芸の類かと考え、コテツの動きを注目した。

 ユーゴの杞憂など、コテツとカガミにはおかまいなしだ。


「すっごーい! コテツ! ぐってできる? ぐぐぐって!」


 カガミは両腕を曲げたり伸ばしたりして見せる。

 コテツを助長させるカガミの言動に、ユーゴはさらに慌てた。


「ちょ! カガミちゃん! コテツ、隊員服着たままやめろよ? そういうのは! な?」


 コテツの耳にはカガミの声しか入っていかない。


「余裕だぜ! このまま……どうだ!」


 コテツは不安定な刀の上で逆立ちをしたまま、慎重に刀の柄を握り直すと、逆立ち腕立てをし始める。

 一回、二回、三回と回数を重ねる度に、コテツのバフォーマンスに注目する観光客が増えていき、歓声を上げた。


「あの人すごーい!」

「さっきの隊員さんだ! ノダナさんを頭に乗せてた人!」


 気が付けば周囲に人垣ができはじめる大騒ぎになっていた

 ユーゴは額をおさえて天を仰ぐ。


「そういうことするから出世に響くってのにさ……写真まで取られて……はあ」


 コテツはしばらく逆さ剣立てを披露し、最後には勢いをつけて飛び上がると、宙返りし見事に着地して見せた。

 両手を天に掲げ、集まった人たちにアピールするコテツ。

 観客からは拍手喝采だ。

 コテツは、逆さ剣立ての負荷でパンプアップした肩の筋肉を叩く。


「どうだ! 見たかユーゴ!」


 コテツの紅潮した笑顔。

 飛び跳ねながら拍手するカガミと、あきれて言葉が上手く出てこないユーゴ。


「すっごーい! さすがコテツだね!」

「ええ……筋肉を? 歓声を? どれを見ろってのさ」

「逆さ剣立てだよ! すげえだろ!」

「ったく、まあコテツのそういうバカな所は嫌いじゃないけどさ」


 ユーゴは達成感に満ちたコテツの笑顔を前に、呆れて笑うしかなかった。

 立ち並ぶ露店の一つから、男性の景気のいい声が飛んだ。


「兄ちゃんすげえな! まるで軽業師だ! どこのサーカスで働いてんだ?」


 茶碗を片手にした、白いハチマキを巻いた青年がコテツに手招きをしている。

 彼の露店には、格子状の棚にところ狭しと銀色の装飾品が飾られていた。


「俺はユニオンの隊員だよ! サーカス団員じゃねえって!」

「兄ちゃんなら軽業師も顔負けよ! いあや、大したもんだ。どうよ、良いもん見せてくれた礼だ。ちょいと見ていきな! 掘り出しもんがあるぜ!」


 褒められてまんざらでもないコテツは、招かれるままに店主の露天へ歩み寄る。

 カガミとユーゴもコテツに続いた。


「オイラはムロージって行商人だ。商いになるなら、物でも情報でもなんでも扱ってる」

 ムロージは木製のカウンター上に、観音開きのケースを広げて見せた。

 年季の入った焦げ茶色の、漆塗りケースには色とりどりの宝飾品が並んでいた。


「あー、勘違いしちゃあいけねえよ? 商人の仁義に反するもんは一切あつかっちゃいねえ! 副を売るのがオイラの商売だ! ま! 百聞は一見にしかずだ! こいつを見てみな! っと、その前に、そちらの素敵なお嬢さん、失礼だが歳を聞いてもいいかい?」

「うん! いいよ! 先月で十七歳になったばっかり!」

「お! やっぱり! ってこたあ、奇遇だねえ。今夜はクトファ流星の夜! 成人祭も間近だ! こいつはめでたいねえ!」

「もー、知ってるくせに。このペイント見たらバレバレだよ! あはは!」


 カガミは自らの頬に描かれた赤い火焔紋様を指さしてはにかむ。

 わざとらしく頭をかくムロージ。

 コテツは状況がわからず二人の顔を交互に見やる。


「え、あ、もしかして、二人は……あ!」


 コテツは言いかけた言葉を遮り、視界に入ったものを二度見した。

 露天の後ろに、見覚えのあるノダナ族が仰向けで眠りこけていてるではないか。


「んごー……ぷすぅ……んごー……ぷすぅ……」


 腹の上に食べかけのドーナツを乗せたまま、気持ちよさそうに昼寝をするノダナ族。

 コテツは思わずノダナ族を指さす。


「さっきのノダナ族!」

「あはは、ノダナ族さんと旅している商人さんがいるって言ったでしょ。それがこのムロージさんだよ」


 ムロージは額の白いハチマキをしめなおし、威勢よく自分の額を叩いた。


「相棒から聞いてるぜ! コテツが助けてくれたのだなーってよ! もしかしなくてもだ、兄さんがノダナ族を背負ってきたいうコテツだろう?」

「助けたっていうか、手伝おうかって言ったら、体をよじよじと登ってくるから。流れで」

「へえ、そいつあ珍しい! ノダナ族はけっこう人見知りなんだがねえ」

「しかも、ドーナツも貰ってたよ! ね?」

「ドーナツまで! へえええええ」


 ムロージは腕組みをしてコテツの足先から頭のてっぺんまで、嘗め回すようにじっくり見つめて吟味する。


「オイラの相棒が認めたなら、ただの掘り出し物じゃあつり合いがとれねえや。ちょいと待ちな!」

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