0-1.プロローグ
――世界樹は、滅びを根に宿す神の遺骸である
惑星ダニア。
この星で唯一の陸地であるユーストリス超大陸には、世界樹の伝説があった。
かつて神々と人間の戦いによって大地は割れ、世界が切り裂かれた時、礎の女神ダナートニアが大地の裂け目へと身を投じた。
その身は輝く緋色の大樹と化し、砕ける世界を繋ぎ止めたのだ。
顕現した世界樹の根は大地を穿ち、星の核を鷲掴むと、梢は天を突き宇宙へと到達した。
世界樹の誕生は大地を波打たせ、押し流された地殻は超大陸に広大なクレーターを生んだ。すり鉢状に変形したその地は、標高7,000m級の守護山脈に囲まれ、世界樹の聖域として外界から隔離されるに至る。
しかし、世界を繋ぎとめたこの女神ダナートニアの献身をもってしても、戦いは収まらない。争う愚かさに気付いた神々は地上から姿を消したが、蒙昧な人間だけがひたすらに戦いを続けた。
皮肉にも、ダナートニアの世界樹がもたらす、奇跡の資源「重銀」を求めて。
人々の浅ましさを嘆いた礎の女神ダナートニアは、人間もろとも、この世の全てを慈悲の氷で包んだ。
女神は言った。
「今、幼い時代は氷によって滅びました。
再び始まる時代、星を食い尽くす者達が大地に溢れるならば、
我が子ら、神域の守護者らによりて、再び世界は滅びるでしょう」
と――
――神代の物語から幾億の時が流れ、人は新たに文明と繁栄を築き、動乱を生んでしまう。
ユーストリス超大陸の中央、7,000級の守護山脈の南東に位置するアウルカ国。
山岳地帯の小さなゴカ村で見つかってしまった「重銀」の採掘が、悲劇の始まり。
世界の「重銀」独占を目論むエンブラ帝国が、それを黙って許すはずがなかったからだ。