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魔性とか分からないが苦労は絶えない

作者:


私は思わず後退りする。

皇太子の婚約発表パーティーに招かれたはずだが目の前で行われていたのは大乱闘だった。誰もがなりふり構わず殴り合い蹴り合い、紳士淑女とは程遠い姿と成り果てている。

会場の中心が不自然に人がおらず不思議に思い見ていると中心にただ慌てるだけの婚約者がいた。

なんとなく流れが見える、きっと私が会場に着くまでの間にうっかり惑わしたのだろう。

私の婚約者は見目に優れており婚約前は令息や令嬢に過激なまでのアプローチを受けていた。婚約後も目に見えて行動をする人物は減ったがちょっかいをかけてくる人間は減るどころか増えていく一方で現在進行で頭を悩ませていた。

特にここ最近は鉄面皮であったのが表情が豊かになり、笑顔を見せるようになったのも要因だろう。

全く会場に足を踏み入れたくないが騎士たちから懇願の目を向けられる、制圧しようにも身分が高すぎて手出しができず困っているのだろう。中には主役である皇太子や皇女の姿も見える、婚約者の尻拭いをするために皇族の相手をしないといけないだなんで最悪以外何ものでもない。私は腹を括り邪魔なパニエを脱ぎ捨て、スカートに切り込みを入れ足を動かしやすいよう高い位置で結ぶ。ヒールを手に持ち会場へ飛び込む、おそらく私よりも身分が高くお金を持っているであろう人間たちをちぎっては投げ道を作っていく。

やっとの思いで婚約者のところに辿りつくと削られ残った人間が襲い掛かろうと手を伸ばしていた、見捨てたい気持ちがよぎるが父に言われた言葉が私を奮い立たせる。


「なんとしても守るのだいずれ大公となるお方だ。お前が大公妃となれば異国の侵略によって万年金欠の我が領地が潤い、民に報いることができるのだ」


心が燃える、信じ送り出してくれた家族と領民を思い私はちょうどいいところにあった両足を掴み振り回す。雑魚を蹴散らし武器を捨て、婚約者にいまだに張り付く害虫を振り払い抱き寄せた。


「大丈夫でしたかリヒト」


「エリー、怖かったよぉ」


私の胸に飛び込み、大泣きをするリヒトを慰めるように頭を撫でる。

ようやく静かになった会場を見渡せば私と婚約者を除く貴族は気を失い地面に散っていた、心配そうに覗き込んでいた騎士や従者たちに全員を片付けるように指示をしリヒトを引き剥がす。


「パーティーどころではありませんし帰りましょうか」


「うん」


背を向け歩き出そうとするとクンッと袖を掴まれる、この後に言われる言葉を思いこめかみを押さえる。


「エリー、手を繋いで欲しいんだ」


17の男が言ったところで可愛くもないがこの男はこういった要望が通らない時に限って動こうとはしないことを今までの付き合いから学んでいた。それに周りの人間からすると取り合わない私がおかしいらしく無視をした暁には明日の情報誌の一面が飾られることとなる。


「どうぞ、お手を」


仕方なく手を差し出せば輝かしい笑顔となる。

みんなが言うように胸を打たれることはないが目が潰れそうになるほど眩しい。

私はリヒトの手を引き、会場に乗り付けてきた馬車へと押し込む。

閉じられた空間の中、沈黙が支配するがやけに婚約者の視線がうるさい。私を見ては目線を逸らし何か言いたげに口を開くが飲み込むのを繰り返す。


「何か言いたいことでも」


「えっと、その、エリーから見ていつもと違うところとかないかな」


目線を合わせたかと思えば慌てたように視線を下にむけ、忙しなく指を動かす。

変わったことと言われても人の容姿にも流行にも疎い私が気付けるはずもなく、どれだけ観察してもわからない。身を乗り出し舐め回すように見ていると嗅ぎなれない香りが鼻腔をくすぐる、思考を奪うほど甘い香りに頭がくらりをする。

私は思わず胸ぐらを掴み引き寄せ、香りが強く感じる首元に顔を埋める。


「エ、エリー、こんな馬車で急に恥ずかしいよ」


頭の上からえらく勘違いした発言が聞こえてくる。

私は匂いを確認し終わると距離を置き椅子に座らせる、言いたいことは山のようにあるが一つだけ問いたださなくてはいけなかった。


「この香りはどこで手に入れましたか。私の記憶では交配の関係上、体の害はないですが神経をひどく刺激し興奮状態を引き起こす代物で公の場での使用は禁止されていたはずですが」


「そんなこと知らなかったんだよ。お母様がエリーを誘惑できるって」


本当に知らなかったのか申し訳なさそうに首を垂れる。

知らなかったとはいえやはり騒動の発端であったことを再確認させられる。普段は理性で抑え込んでいた欲望が香りによって触発された結果だろうが禁則物を使った以上、登城して国王陛下に頭を下げようと心に誓った。

それよりも疑問なのはリヒトである、婚約をしているのに誘惑とは全く話が見えない。


「というかどうして私を誘惑する必要が。すでに婚約していますしリヒトが目移りしない限り私は結婚するつもりでしたが」


「でも、エリーは僕のこと好きじゃないでしょ。僕はエリーにも僕を好きになってもらいたいんだ」


「別に嫌いではないですし、結婚できる程度には好きですが」


「そういうことじゃなくて!僕に恋をして欲しいんだ」


恋、思いがけない言葉に思考が止まる。

逆にいつリヒトが私に恋をしたのか思い当たらない、3年ほど前から大公妃としての教育の一環として大公家にお世話になっているがほとんどの時間を教育と訓練に使っていてまともに顔を合わせるのは屋敷では朝食と夕食だけで外でもパーティーにパートナーとして行くだけで交流を深める機会なんてなかった。

今日だって本来であれば共に入場するべきだったが騎士団の訓練が長引いたせいで先に一人で行かせるような女のどこがいいと言うのだろうか。


「恋ですか、家族としての愛では不十分で」


「それも嬉しいんだけど、僕ばっかり好きなんて不平等だ」


勝手に好きになっておいて不平等とは。


「僕はエリーのそばにずっといたいのに、一緒に寝ようって言っても拒否するから」


「婚前交渉は致しません」


「添い寝だけだから〜」


「先ほどの話を聞いて信じるとでも。あと一年です我慢してください」


そばに寄ってこようとするリヒトを押し除け、馬車に備えておいた手綱を紐がわりにして体を縛り付けスカートを破った布で口を塞いだ。乱暴な行いをしないと信じてはいるがこれ以上付き合いきれないので動きの全てを封じる、潤んだ瞳で何かを訴えるが私は窓にもたれ目をつむる。

馬車の中にはリヒトのうめき声と私の規則正しい息遣いだけがこだました。

思いついたところだけ書きました、気が向いたら続きを書きます

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