第3話
『男』は驚いた、何故ならば『男』が予想していたスキルが1つも無かったからであった。
(何故身体系のスキルがないんだ?)
『男』は凍死しかけた自分の体を治したものは身体系スキル――文字通り己の身体に対して作用するスキルである。また、その中でも攻撃、防御、回復……etc.と分けることが出来る――、『男』が思っていたのはその中でも耐性・無効型のスキル“状態異常無効”は必ずあるものと確信していたのだ、若しくは回復のスキルはあると思っておりその2つがないという事は、スキル以外で何か原因があるのだろうかと『男』は考えた。
(いや、見えているスキルが5つなだけか?)
『男』は自分が転生者だと気付いた時、その代償で自身の名前を認識できなくなっていた。そして今回はそれが“認識できるスキルが制限される”という形の代償だったのではないかと自身が出した問題に回答した――それが正しいのかは定かではないが――。ともかく、禅問答や、形而上学の様に考えても答えが出ない問題について思考を巡らすよりも今は大切な事が『男』にはあった。
(先ずは、現在認識できるスキルとその効果の確認だな)
(ステータスオープン)――当たり前だが、ステータスオープンはわざわざ口に出して言うのではなく、頭に思い浮かべて自身の頭の中に表示させるものだ。先程『男』が口に出したのは、脳が疲弊して勝手に口から言葉が出た結果だった――
〈合理的な判断〉
①パッシブスキル
以下スキル効果
スキル保持者にとって少ないリスクで大きいリターンが得られるという意味での合理的な判断をしやすくなる。
②アクティブkn5スキル、発動制限なlmし
以下スキル効果
合理的な選x択を取る際、それが自身のrk感情を押しつぶすものであればある程、合理的な判断-]の結果uljで得られるリターンが増幅する。
〈洗脳〉
アクティブスキル、条件発動型
以下スキル効果
相手を行動を“ある程度は”操る事が出来る。
条件
“洗脳を使用したい相手”と“性交渉”をする。
〈話術〉
パッシブスキル
以下スキル効果
スキル保持者の商談、評議、協議、話し合いでのイニシアティブの取りやすさ、スキル保持者視点での商談⋯の成功のしやすさが“ちょっぴり”上がる。
〈魅了〉
パッシブスキル
以下スキル効果
スキル対象範囲内(2m)で、スキルの影響下に入った生物はスキル保持者を“少し好ましく感じる”、これはスキル保持者に対して元々対象者の好みのタイプ、人種であったり、好感を感じているほど効果は増大し、またその逆にスキル保持者を好ましく思っていないほど効果は薄れる。
〈読心術〉
アクティブスキル1日に(一回のみ使用可能)
以下スキル効果
対象者(1人)が考えていることが“何となく”分かる。特に強い感情や興奮――愛情、憎しみ、性欲⋯etc.――は読み取りしやすい。
(合理的な判断の説明が一部文字化けしているのは俺の脳の疲弊が残っているからだろうか? )
この異様なスキルとその効果を見ても、意外な程に『男』は落ち着いていた。“まるで感情が無くなった様だった”。その理由の一つはこの世界における“スキル”というものがどういったものであるか、『男』には分かっていたからだ。
この世界にはRPGのようなレベルと言う概念がない。
だが、当然努力をすればする程に強くはなる、良いご飯を習慣的に食べればある程度のステータスは得ることが出来る。修行をすればその修行の成果に対して各ステータスは上がる。
それはスキルにも当てはまり、スキルを発動したことが無いと出力が弱いので、スキルの効果も弱くなり、条件型スキルの条件もそれに応じて厳しくなるのだ。例えば条件型身体系スキルであると、最初にスキルを発動する時の条件で、自身の片腕を切り落とすというのもある。さらに、『男』が得たスキルはほとんどが精神系スキルであり、条件型精神系スキルは効果が優秀であるためその分条件も厳しい事で有名だったのだ。
そして、そのような条件型スキルの重すぎる欠点をどう補っているのかといえば、これもまたスキルの特性であった。
それはスキルが一部の例外を除き、遺伝で引き継がれるものだという事、周りで自分が持っているスキルと同じスキル使用する者がいて、その人物のスキル発動を何回も見ていると、自身のスキルの出力も上がるという特性だった為だ。スキルの出力が上がると能力も上がり、条件も緩くなっていく。そのようにして親兄弟のスキル発動を見ることがスキルを成長させる方法の中で一般的であったのだ。
(とりあえず使ってみないことには始まらないな)
『男』は〈読心術〉を奴隷商人に使用した。
(やはりそうだったか)
奴隷商人の心を読むと、奴隷商人が小児性愛者であること、子供であれば性別に関係がないという事が分かったのだ。『男』自身、思い当たる節が無いわけではなかった。というのは、奴隷商人が営む店では人種に関係無く子供の奴隷を多く売っていたのだ。だがこの世界における子供の奴隷は『男』のような発育が良く、働くのに問題が無い者以外は基本的に貴族の中でもかなりの大金持ち、またその子供、大商人の愛玩用にしか使えないため、需要が薄い。さらに言えばそのようなやんごとなき身分の方々がそのような愛玩用の奴隷を買う際は子供の様に小柄な体躯をしている“エルフ”を飼うのが一般的であり、またエルフを飼う方が自分の地位に箔が付くので、より子供の奴隷の需要が低くなる。よって奴隷商人が子供の奴隷を多く売る理由は自身の“性的嗜好”だろうと『男』も考えていた。
(では、これを使うしか方法は無いな)
『男』は覚悟を決めた表情でそう考えた。
次の日――食事を禁じられてから4日目、また自身が転生者だと気付いて10日目奴隷として売られ、1ヶ月と10日――
「水を! 水をください! お願いします! まだ死にたくない! 頼む、どんな事でもするからァ!」
『男』は叫んでいた、奴隷商人が近づいてくるまでずっと。
奴隷商人が『男』の牢屋に近づき言う。
「おい! うるせえぞクソガ……キ……」
(よし、〈魅了〉は発動した、どうだ……? )
『男』は目を合わせて魅了を発動した。
本来ならスキルを発動した事が無い者にはスキルの説明に書いていない事は分からないはずだが、『男』は転生者で“前世の記憶”があり、『魅了スキルは目を合わせて行うもの』という認識があったのだ。
好意には2種類がある、簡単に言えば『性的な意味を持たない好意』と『性的な意味での好意』だ。前者は友人や、いわゆる“好きな子では抜けない”というようなものだ。反対に後者は“そういうお友達”であったりするもので恋人や夫婦はそのどちらもと言えるだろう。
〈魅了〉も通常はその両方の好意を上昇させる。だがスキル発動時に目を合わせる方法で発動すると、後者の『性的な意味での好意』のみ上昇するのだ。
となると、当然後者の上昇する分は通常発動時に比べ2倍となる。この発動方法はハニートラップにて良く使われるものだった。
そのような背景を『男』は理解してはいなかったが、上手くいったという感触はあった。
「よし、水はやる。食事もやろう。だが代わりに手伝ってもらいたい仕事がある。何でもすると言ったよな?」
奴隷商人がこう言うと『男』は肯定し奴隷商人と共に彼の部屋まで行くのであった。
…『男』は〈洗脳〉の発動条件を満たし、スキルを発動した。
翌日、奴隷商人が『男』と共に井戸のそばで体を洗いながら言った。
「そういえばお前、先の戦争で滅んだ国の貴族出身だったな。今日、講和条約でお前の祖国が正式に消滅したとさっき連絡が届いたよ」
『男』は一つも興味無さそうに答える。
「そうなんですか? 知りませんでした」奴隷商人は驚いた表情で言う。
「……お前、すげえな。自分の祖国が滅んだと言われても顔色ひとつ変えないのか。流石、俺に犯されても涙一つ浮かべなかっただけはあるな」
『男』はそうですねと笑いながら言い、その中で思考を巡らせていた。
(奴隷商人の言う通りだ、いくらなんでもここ迄の事があったにも関わらず、全く何の感情も沸かないというのはおかしい。俺の感情は無くなってしまったのか? いや、それはない何故ならばスキル〈合理的な判断〉の②アクティブスキルでは“自分の感情を抑えれば”〜と書かれていたはずだ、感情がなければそのような表示になる筈がない)
そう思い頭の中でスキルを確認すると、そこには思いがけないことが書いていたのであった。