第2話
まず私に感想とアドバイスをくれた友人3人に感謝を。そして一人の友人のアドバイスより、主人公の表記が男だと一般名詞で使う際と固有名詞として使うのに不都合ではないかとアドバイス頂き、
今回より主人公は『男』と表記致します、また、誰かが主人公を呼ぶ際もこの様に呼びます。
男がいた。
その『男』は貴族の出身であったが貴族間での派閥闘争に男の家は敗れ、『男』以外の家族は殺された。また国内は派閥闘争によってボロボロとなり、それを好機とみたA王国ら敵国により貴族によるクーデターから王を守るため侵略され、『男』の祖国は滅びた。だが男は身分と名前を変え、奴隷としてA王国に売られていた。『男』は鉱山での権益で経営を建てている子爵位の元、坑道で鉱石の発掘を他の奴隷と共に行っていた。だがしかし、『男』はやんごとなき身分の象徴たる金髪碧眼の白人であったため、他の奴隷から一際激しい新人イビリを受けていたのだ。
だが上昇志向が強く、主たる子爵がドワーフの子孫である事に不満を持つ白人至上主義の騎士、“デュース”との画策とその結果により、新人イビリは無くなった。
『男』が奴隷として働いて2年の月日が経とうとしていた。
「おい、(〜な駲jsc4、元気にしてたか!」、同じ奴隷仲間のドワーフ、“グリム”が『男』に話しかけた。いや、その前に説明しておかねばならない事があるだろう。
『男』は異世界転生者であった。より詳しく言えば転生者と気付いたといったほうが良いかも知れない。そのトリガーとなったのは奴隷となった後、自身の“名前”を変更した事だった。その代償として『男』は自分の名前を認識する事が出来なくなっていた。これは男の異世界転生がよくある異世界転生モノと違うものであった事に関係している。『男』は生まれながらに自分が転生者と認識していたのでは無く、自我が形成された後に自分が転生者と認識してしまったが為に、脳のリソースの一部を転生前の記憶等の為に割かなくてはならなかった。その結果が自身の名前と?? を失う事であった。よって誰かが『男』の名前を呼ぶ時、『男』にはそれが女性の喘ぎ声であったり、赤子の悲鳴であったり、宇宙人の声真似の様に聞こえるのだった。
「よぉグリム! 朝っぱらから元気なもんだな」『男』も元気良く返事をする。
他のドワーフ達も続々と集まってくる。
『男』は自身の名前のみならず、他人の名前を覚えることも、苦手なものとなっていた――これは現実にも高次脳機能障害の1つ、“失顔症”という病気がある。『男』は前世の記憶より、自身がその病気に、またそれに似た病気になっていると考えていたがそれが真実かどうかは今は誰も知り得ない――。そのため、男はドワーフ奴隷のリーダー、“グリム”
ラテン系白人奴隷のリーダー、“ルカ”
アフリカ系奴隷のリーダー、“ムクウェネ”この3人と書類上の主、騎士デュース、領主であり実質的な主たるストーン家“ハプルブク子爵”の5人のみを限られた脳のリソースで覚えていた。
そしてありがたい事にリーダー格以外の奴隷は『男』話しかけることも少なかったので名前を覚える必要も無かった。これは、『男』に対して性的な意味も含めて、新人イビリをしていた事に対し、報復を恐れていたり、『男』から教育サれることを恐れていただけでなく、他の理由があった。
『男』には“スキル”があった。
話は遡り、『男』が奴隷商人の元、自分が転生者であると気付き、子爵に売られるまでの2週間でのことだった。
『男』は凍死寸前の状態であった。A王国は元々がドワーフの王国だったこともあり、気温がとても寒く、衛生環境も悪い中で食事は1日にパン1つとコップ1杯の水を部屋の同居人と半分こしていた。だが3日後には同居人は死んだ。先ず『男』はパン1つと水を独り占め出来る事に喜んだが、その後にとてつもない罪悪感を感じていた。『男』は貴族の長子として、情操教育も当然受けており、しっかりとした道徳観を持っていたのにも関わらず自分は同居人の死を悲しむのではなく、食べられる食事の量が増えた事に対しての喜びを最初に感じた事が酷く恐ろしく、気持ち悪く、最低な事だと思った。
だがそのさらに3日後、奴隷商人に同居人が死んだことがバレ、寝床のブランケットを奪われ、5日間の食事を禁じられた。
そのような状態になれば凍死寸前になるのも当然だっただろう。
そしてさらに3日後、『男』は死ぬ間際であった。だがしかし、そこでまたもや『男』の頭の中に電流が走った。これは死ぬ間際に出る脳内麻薬によるトリップだった。いきなりだが話は変わる、とある宗教では麻薬を利用して“悟り”や“般若”を得る事が修行の1つにある。また、西洋のオカルトでは薬物のトリップで“アカシックレコード”に接続する。というものもある。
いや、この際に御託は述べる必要は無かった。結果を言うに、『男』は生き延びた。そして高次元な存在との交渉で“スキル”を得たのだ。だがその代わりの代償は払われた。それが1度目は自分の名前を認識出来なくなる事であった。そして今回の代償は……、いや、今回の代償が――人間としての“尊厳”、貴族としての“誇り”、“道徳観”――何であったとしても、それは『男』を生かした事に違いは無かっただろう。
「ステータスオープン」
『男』がこう言うと頭の中に複雑な文字と数字の並びが思い浮かんでいき、約2秒の時間を掛けて、それらが『男』が読めるものに変わった――通常ステータスオープンは1コンマ、そもそも時間が掛かるなんて価値観が存在しないほどだが、これは『男』の脳が高次元存在との交渉の際、彼らが使う文字に調律されていた事を表す――。
『男』のいわゆるステータスと呼ばれる攻撃力、防御力……etcには特別何かが上昇してはいなかった。
だがスキル欄を見ると、そこには新たに5つのスキルがあった。
〈合理的な判断〉
〈洗脳〉
〈話術〉
〈魅了〉
〈読心術〉