エリーゼのために
図書館で処刑場の噂について調べた日の夜、私は件の学校付近の広い路肩に車を止め、窓を全開にして聞き耳を立てていた。
これも噂の実証のためだ。
その噂とは、夜の音楽室のピアノからエリーゼのためにが流れてくるという定番のものである。
特にそれにまつわる話もなく、誰かが乗りと勢いで広めた嘘だと私は思っている。
嘘とわかっていて確かめに来るなんて私も相当暇だな・・・
「まあ、実際暇なんだけどね。」
暇を持て余した私は自分の思考にツッコミを入れた。
「もう少ししたら帰るか・・・え?」
独り言を言い終える前にメロディが耳に届く。
これは・・・エリーゼのためにだ。
メロディがなんの曲であるかを認識した瞬間、私は血の気が引いた。
「・・・あれ?」
しかし、すぐに血の気が戻ってくる。
まずメロディの音がピアノではなく電子音で、次に音の発生源が学校とは逆方向だ。
「どこからだ・・・?」
私は車から降りて音の発生源を探した。
「あ・・・」
雑木林の先にある工場に目が止まる。
工場は明かりを煌々と灯し稼働状態だ。
気がつけばメロディは止まっていた。しかし、すぐに電子音のエリーゼのためにが工場から流れてくる。
「設備の呼び出し音か・・・この噂、半分は実話だったな。」
意外な所で本当に近い噂に出会えたことにより、僅かな笑みをこぼしながら私は帰宅した。