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その悪役令嬢が目を覚ます。

「……っしゃあ!書き終えた……!!悪役令嬢―――パビリアは処刑され、一番人気だった皇太子フリージアとティリアが式を挙げて……後は外伝を数本書けたらこのシリーズは終わりかな……」



パビリア・ロジエル。

彼女には可哀想な事をしたけれど、最初のアンケートで悪役令嬢に票が入ってしまいそのまま悪役令嬢として、多大な魔法や家柄を得ながらも、婚約者だった皇太子からは不興を買った挙句、他のヒーロー役からも嫌われる対象として書き続けた。

ヒロインに選ばれた、ティリア・マクスヴェルを苛め続ける姿に批判のコメントも多かったけれど、個人的には彼女の鮮やかな赤い髪や、金の眼や唯一精霊や魔術に長けて、品のある部分はお気に入りだったし、本当は処刑ではなく精霊となって無知からの生を受けて欲しかったのだが……


ティリアの人気は凄かった。



対の白銀の髪に、桜色の瞳、庇護欲を掻き立てる宝石の様な大粒の瞳や、人魚の様な魔力の込められた歌声。デザイン画を描いてくれた人には申し訳ない程、可愛らしいヒロインで、パビリアは鋭い瞳の美人系。


どちらをヒロインにするか。

前作を書き終えた時に同時にとったアンケートで、ティリアは圧倒的ヒロイン票をとって、作品の中心へと躍り出たのだ。




「ごめんねぇ……パビリアぁあぁああ……私は貴女がヒロインなら、って話も考えてたの……」




精霊を従え、国を荒らす毒婦を倒す―――苛烈な皇后、もしくは侯爵令嬢に仕上げたかった。


が。




「まさかティリアの人気が凄いとは思わなかった……途中で色々パビリアの双子で、救済ルートとか色々考えたのに……」



"パビリアは美人過ぎてつまらない!"

"急な双子設定でも、いじめは好きじゃないから断罪ルートが良い"

”最近は悪役令嬢が良い人になるのが多いから、このままにしてほしい!"



確かに悪役令嬢が転生したり、回帰する作品は多いから取り入れるつもりは無かったけれど。



"紅く伸びた髪と白い項が処刑具によって、胴体と切り離されていく。此れでパビリア―――精霊界へ繋がる悪しき人間の呼吸は止まった。ティリアは見ない様に目を塞ぎ、落ちた首を掴みフリージアは声を上げる。"

"「これで精霊界からの反旗は収まり、此の血を誓いとしティリア・マクスヴェルを正式な皇后として封じる!」"

"「―――フリージア……!」"

"「人は人と共に、精霊は精霊の国へ!」"



なんて陳腐で退屈な終わりか。

何ならティリアはパビリアの死を直視してないし、首を持ち上げ方も武骨すぎる。

こんなエンディングで良いとは思わなかったが、アップした瞬間沢山の評価や良いや、その後のティリアとフリージアが見たいとコメントされたのだから、大衆には満足の出来なのだろうと言い聞かせた。


パビリアの良さを出せなかった自分に悔しさしか残らない。



「自作ではパビリアみたいなヒロインは作らない!」



外伝を渋々書き上げて、早々にパビリアを幸せにするような物語が書きたいのだ。





「せめて……精霊界の王、ウェルシアのルートを作っておけばよかったなぁ……」




途切れたノートパソコンの中の文章。







+*+






「――――じょうさま!お嬢様!」

「……誰がお嬢様なの……執筆中以外でこんな夢……」

「パビリアお嬢様!今日は皇宮からフリージア皇太子がお見えになる日ですよ!ほら!起きてください!」

「はぁ……??なんの話…?悪い冗談はやめ……」



止めて、と言いかけて、自分に話し掛けているメイドを見る。

精霊の祝福である口元の黒子、一括りに纏めた栗色の髪の毛、人間と精霊の混血である事を証明する赤い瞳。

パビリアの専属メイドであるリンメイ、幼い頃からパビリアと共に暮らし彼女を窘める事が出来た唯一の人で、友人。パビリアの死後、行方をくらませた人物。


湯気の立つ桶に映る自分を恐々と覗き込んで――――悲鳴が出た。




「うっそ!嘘!嘘嘘嘘嘘!!!!何で!?現実でこんな事あって良い訳ないでしょ!!?私は作者であってパビリア・ロジエルじゃないのよ!?なって良い訳でもないの!!悪い夢でしょ!?」

「お嬢様!?あっ、待って下さい!!待ってパビリア!」

「ごめん!!リンメイ!!!今それどころじゃない!!」




それどころじゃないけど。

Uターンをして、リンメイの頬を両手で支え、まじまじと顔を見る。



「やっぱりリンメイは目鼻立ちも綺麗で、ハーフ特有の赤い目も本当に綺麗!ああもう何でメイド服しか着せなかったんだろう!ねぇ、ちょっとシェルヴァ!リンメイに合うドレスを見繕って!私のやつから何点でも良いわ!貴女には宝石を数点あげるから!お願いね!」

「ちょっと急にどうしたのパビリア!?」

「畏まりましたお嬢様。宝石はご遠慮しておきますね。」

「良いの!私があげたいから!」



ドレスも宝石も何もかも今はいい。

寝間着姿のまま走り出した先は自分の小説の重大なシーン。

本来ならパビリアは此の後、酷い絶望に晒されるけれど―――作者である自分なら絶望もしないし展開も分かる。

此の後、幼い頃から培われた甘い砂糖菓子の様な日々と、関係に終焉が訪れるのだ。


寝巻のままで乱暴に開いた応接間




「―――ジア、」

「あぁ……パビー……寝巻のままじゃないか……」

「ごめんなさい。驚いて着の身着のまま来てしまったの。言いたい事は分かるわ、それを受け入れるわ。不快なら田舎へ行くし、国外追放も遠慮なく受け入れるわ。私は精霊界を唆して戦争もしないって誓うから。」

「何を言っているんだい?パビー。今日は君とお茶会をしに来ただけだよ。」

「……は……?」

「それに何故急に別れなんて……僕は小さな頃、君に皇后の座を―――僕の生涯の伴侶として生きて欲しいと誓いを立てた筈だ。」



薄紫の少し長い髪を、宝石のついた紐で結い、黄緑に輝く瞳を眼鏡で軽く隠したフリージア皇太子、ジアは酷く哀しそうな顔で自分へと膝をついた。

パビー、ジアと愛称で呼び合うのも、今日が最後だと思っていたのに何故。というより、本来ではここで離別し、全てに憎悪を剥けるはずのパビリアが、作者の私なのだから少しくらい乖離はある。


乖離はあるはずだけれど。



「ティリア・マクスヴェル嬢とはご一緒じゃないんですか?」

「マクスヴェル令嬢?何故?僕には君という婚約者がいるのに?」

「い……いえ、マクスヴェル嬢は最近……ジアと親しいと聞いていたので……」

「……君にそんな話をさせたくなかった……それを含めて話をさせてくれないか?」

「え、ええ……」



すとんと座ろうとした刹那、フリージアが自らの脱いだジャケットを肩にかけてくれた。

きゅっと逞しい腕に胸がきゅんとしてしまったが、自作のキャラだと思えばなんだかおもしろく思えてしまう。




ティリアの存在は最初から出してきている。もう数メンバーは恋に落ちているはずなのに。

用意された紅茶と菓子を挟んで、彼はため息交じりに話し始めた。



はじめまして。

作者が入り込んだ世界線を書いています。

御時間つぶしにどうぞ。

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