終章Ⅱ 希望の果て
冬が過ぎ去って、春の柔らかい風が吹き付ける桜の季節。
〈スタストール〉の大攻勢に備えていた連邦と共和国は、訪れるであろう連合作戦の実施に先駆け、協力関係の証として共同部隊を設立することとなった。
そうして開始された共同部隊の隊員募集だったが、多くの人達は尻込みするばかりで。両国共に殆ど人員は集まらなかった。
それもそのはず、相手は数ヶ月前まで殺し合い、人権を剥奪し合っていた敵国なのだ。そんな奴らと肩を並べて戦えなどという部隊に、自ら進んで志願する者などいるはずもない。ましてや、その軋轢の最前線に居た軍人ならば尚更に。
そんな状況の中、レヴ達第三独立魔術特科戦隊は迷わず共同部隊へと志願し――そして今、ここにいる。
ヴァイスラント共和国東部の、空軍基地の一棟。そこの指定された会議室の前まで来て、レヴは一度足を止める。硬い視線で扉を見つめながら、深く息を吸って、吐いた。
正直、どんな顔をして相手の指揮官と会えばいいのか分からない。
相手は白藍種だ。互いに差別し、嫌い合い、殺し合ったヴァイスラントの軍人だ。相手もそれは承知の事とはいえ、事実は変わらない。
謝罪をするべきなのか、それとも何もなかったかのように振る舞えば良いのか。レヴの脳裏にはそんなことばかりがぐるぐると回っていた。
気後れしているのに気付いたらしい、アルトは呆れたように苦笑をもらす。
「何でもいいからさっさと入れよ。そういうことは、俺らが考える事じゃねぇんだから」
「政治のことなんかは大人の人達に任せてればいいの。私達は私達で、まずは共和国の指揮官がどんな人なのか知らないと」
つまり、要約すると。余計な事を考えてないで、とっとと部屋に入れということだ。
全く返す言葉もないので、レヴは暫し押し黙って。意を決して扉をノックした。
「どうぞ」
帰ってきた返事はどこか聞き覚えのある少女の声で、少し疑問を覚えながらもレヴは言葉を返す。
「し、失礼します……」
おずおずと部屋に入って、最初に目に入ったのは開けた窓から見える景色だった。
春に特有の霞がかった青い空に、風に揺れてはらはらと舞う桜の花。少し視線を下げた先、ソファに座っていた少女にレヴは目を見開いた。
「え? あの子って……」
レーナが呆けたように呟く声が聞こえる。そんな二人を気にすることもなく、その少女は手に持つ書類を熱心に読み進めていた。副官に囁かれて、そこで来客が連邦軍の人達なのだと気付いたらしい。書類を机に置いて、彼女は立ち上がる。
吹き付ける風に月白の髪を抑えながら、少女はこちらに視線を向けてくる。宝石のように綺麗な真朱の双眸に、共和国軍の軍服から覗く月長石のペンダント。
呆気に取られるレヴの頬を、優しい風が撫でていった。
「はじめまして。ヴァイスラント共和国軍――……」
レヴと目が合って、その少女の言葉が止まる。えと目を見開いて。ぽつりと、呟くような声がこぼれ落ちた。
「レヴ……?」
その声に。レヴは満面の笑みで言葉を返す。
一点の曇りもない、無垢な笑顔で。
「久しぶり、ルナ」
「ええ。久しぶり。レヴ」
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