胎動
指揮下の三人がレーヴィッツ絶滅収容所の爆破解体作業へと向かっている最中、彼らのハンドラーであるフリーヴィスはステラ・フォースターを連れてヨークスの軍事適性検査場へと来ていた。
車窓から見える外の景色は既に夜の闇で、街頭に照らされた白雪だけがしとしとと降り積もっている。ここに来るのに乗って来た車のエンジン音と暖房の風音だけが響く中で、フリーヴィスはルームミラー越しに後部座席のステラを見やる。
運転手の副官は席を外しているから、今の車内は二人だけの空間だ。正確には、一人と一匹だが。
ルームミラーに映るステラを見ながら、フリーヴィスは淡々と告げる。
「それが君の受けた適性検査の結果だ。射撃能力、瞬間判断能力は両方とも今回の適性検査の中ではトップクラス。空間認識把握能力に至っては、これまでの誰よりも高い適性を示していた。……君は、今の帝国軍においては、最強の戦士になりうる最高の素質を持っている」
帝国軍きっての天才少女。それが、後部座席に佇むステラの検査結果の結論だ。左目に発現した真朱の瞳さえなければ大切に教育されたであろう、文句なしの天才。姉のルナ・フォースターなど比較にすらならない程の、圧倒的な素質の持ち主。
しかし、彼女は紅闇種と看做された人間だ。帝国が人間ではないと言い放ち、人権の全てを剥奪した赤い瞳の持ち主だ。そんな動物に高等な教育など、施すはずもない。
「……これに乗れば、お姉ちゃんはもう戦わなくてもよくなるんですか」
手に持つ書類の一枚に目を落としながら、ステラは訊ねてくる。心の底から姉の身を案じているのであろう、うつくしい姉妹の絆。
ふ、と視線をルームミラーから外して、フリーヴィスは淡々と言う。
「その作戦が成功すれば、この戦争は終わるだろうな」
そう。この戦争は終わる。連邦首都・ベルリーツを陥としさえすれば。
そうすれば、彼女の姉も、彼女自身も、ひととき死の恐怖からは逃れられるだろう。敵となるものが一時的には居なくなるのだから。
それきり、車内には再び静寂の時間が訪れる。
重い空気を紛らわすように、フリーヴィスは煙草を取り出して火を付けた。窓を開けると、冬の冷気がどっと車内へと押し寄せてくる。十二月の終わりの、しんと冷え切った凍結の空気。
「……わかりました。私も、これに参加します」
き、と、朱と蒼の双眸が振り上げられる。年に不相応な悲壮な覚悟を纏った声で。
それをちらりと見て、フリーヴィスは淡々と応える。
「了解した」