間章 Fate
〈折れた刃〉作戦が終わって、数日経った頃の夜。ハンドラーは副官からとある司令書を受け取っていた。
その内容を読んで、ハンドラー――もとい、フリーヴィス少佐は嘆息する。
「……なぁ、大尉。いったい、俺達の軍はどんだけ無能なんだ?」
フリーヴィスの問いに、副官は肩を竦めて嗤う。
「私に言われましてもね。皇族の暴走に仲良く付き合ってるような奴らが、有能な訳がないでしょう?」
「……お前な、」
いくら何でもそれは言い過ぎではないか――と言いかけて。確かに、一理あるなとフリーヴィスは思い直す。
敵国が先にした事とはいえ、それに乗じて違う人種の人間から人権を剥奪し、黒妖犬だとか悪魔だとかと罵っているような連中が、まともな思考を持っているとは思えない。
そして。それは。反対派のように具体的な行動も展開せずに、ただ現状を黙認しているフリーヴィス達も同じだ。
「とはいえ、まさかこんなところに絶滅収容所を作っていたとは驚きだな」
「それは私も同感です」
副官は頷く。
今回、本部から下達された命令の中に記されている絶滅収容所の場所は、帝国北東部、シュネールプス山脈。その北側にある小さな台地だ。
連邦との国境に近く、なおかつ〈スタストール〉支配域との境界線に当たる。
ちなみに、絶滅収容所とは紅闇種人の大量虐殺を目的とした強制収容所のことだ。ここ以外にもいくつか存在しているとは言われているが……、いかんせん国家機密に近い情報故に、真偽のほどは分からない。
「恐らく、ここならば隠蔽が容易だと判断したのでしょう。地理的な要因から考えるに連邦軍はまずここへは侵攻してこないでしょうし、万が一〈スタストール〉が活発化したとしても、収容している人々を囮にして職員達は安全に退避できます。……何より、自国民の目には絶対に留まりませんからね」
「で、我らが国軍は〈スタストール〉の活性化に鑑みてここを爆破処理しようとして――そもそもの爆破を失敗した訳だ」
皮肉げに嗤うのを、副官は苦笑する。
「にも関わらず、国軍は〈スタストール〉に対する恐怖のあまり逃げ出した。そして、残った施設は死んでもいい、使い捨ての特務隊にやらせようと――そんなところでしょう」
「それで、使い潰すのに丁度良かったのが、俺達のブラッドレイド隊だったって訳か」
こくりと、副官は頷く。
とはいえ、万が一にでもこれは連邦には知られてはならない建物だ。良いようにプロパガンダに利用されるだけならまだいいが、今度こそ本当に取り返しのつかない事態にもなりかねない。
〈スタストール〉という人類共通の敵が未だ残存している以上、人類同士の争いを更に拡大させる訳にはいかないのだ。
〈スタストール〉勢力圏の描かれた地図をじっくりと眺めて、フリーヴィスは今後の行動を模索する。
暫しの沈黙ののち、彼は静かに告げた。
「まずは周辺の現況が知りたい。大尉、レイスターの航空隊に偵察を要請してくれ。……俺達の戦隊を動かすのは、それからだ」