序章 Ignited
あちこちから敵襲の警報音がけたたましく鳴り響き、誘爆した弾薬庫が鈍い大音響を轟かせる。
赤い炎が辺りを覆い尽くす中、少年は敵国の少女と銃を突き付け合っていた。
「な……んで……、きみ、が……?」
真紅の瞳を見開いて、彼は狼狽えた様子で呟く。
腰まで伸びた月白の銀髪に、宝石のように綺麗な真朱の双眸。端正な、それでいて年相応の幼さを残した眼前の少女は、間違いなく敵軍の兵士だった。
けれど。彼は銃を突き付けながらも、引き金を引けずにいた。
対する少女も、動揺した様子でぽつりと言葉を漏らす。
「あ、貴方こそ、なんで…………!?」
互いの瞳が深く絡み合い、引き金を引く指が揺れる。
夜闇の中に立ち昇る爆炎と硝煙の中で、二人はお互いを信じられない様子で見つめ合っていた。
再び近くで爆発が発生するが、それすらも二人の耳には届かない。
なんで、なぜ。どうして。そんな疑問ばかりが募っては、頭を駆け巡っていく。
「レヴ! 居るなら返事をしろ!」
仲間の呼び声が聞こえてきて、少年はハッとする。眼前の少女は敵軍の兵士なのだ。今、撃たなければ、撃たれるのはこちらの方だ。
そう思い直し、少年は突き付ける拳銃の撃鉄を起こして、再び引き金へと力を込める。き、と目の前の少女をきつく睨み据えた。
けれど。やはり。少年は引き金を引くことはできなかった。そして、眼前の少女も。
苦渋に満ちた表情で、少年は再び口を開く。
だって。今、おれの目の前にいる敵国の軍服の少女は。
「ルナ…………! なんで、きみが…………!?」
おれの、大切な幼馴染なのだから。