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政志の告白

現在書いてる話が煮詰まっているので気分転換。

気楽にお付き合いを。

名前が絞りきれず、いつものメンバーです...

 一週間に渡った出張の最終日。

 俺は大学時代の友人、橋本夫妻を呼んでレストランで食事を楽しんでいた。

 懐かしい話にワインが進む。


 週末だから、時間を気にする心配もない。

 今日は妻も息子...を連れ明日まで実家に帰省しているから、じっくり腰を据えて飲める。


 場所をバーに移し、友人達と飲み交わす。

 良い気持ちだ、悩みなんか吹き飛んでしまいそうになる。


 そう..家の悩みも、全部...


「ん...どうした政志?」


 橋本孝は俺の僅かな変化に気づく。

 昔から気遣いの出来る奴だったからな。


「なんでもないよ」


 心配掛けまいと笑う、こんな事おいそれと人に話せないし。


「そう?

 悩みがあるなら言って、力になれるか分かんないけど」


「そうだぞ」


 孝の妻、睦美さんも聞いて来る。

 本当に仲が良いな、二人は高校時代からの付き合いて、そのまま結婚したんだ。

 大学の頃は俺と紗央莉の二人も加わって、よく四人でWデートしたっけ。


 もう良いか。

 どうせ来月には実行するつもりだったから、二人には先に教えるとしよう。


「息子が俺の子供じゃなかった」


「何を言ってる?」


「それは冗談でも笑えないよ...」


 やっぱり信じて貰えないか。


「まあ冗談と思うよな」


 誰が聞いてもそう思うだろう。

 二人は妻の史佳を知っている。

 史佳は違う大学だが、同じ旅行サークルの仲間だったし。


「それ...本当なのか?」


「本当だよ、史佳を知る二人には信じられないだろうけど」


「そんな...」


 話のネタにしては重すぎるのは分かってる。

 だけど俺も限界だった、この事実をどう抱えていいのか。


「まさか...弓留(ゆみとめ)さんが」


「何かの間違いよ、だって史佳は真保(まほ)君が大好きで...この前だって政志君の誕生日のプレゼント何を買ったらいいかって相談のラインが...」


 弓留は史佳の旧姓だったな、大学のサークル仲間とまだ繋がっていたんだ、知らなかった。


「し...証拠はあるのか?」


「あるよ、DNAの鑑定書が」


 いつも鞄に入れているファイルを取り出し、カウンターに並べる。

 二人は食い入るようにファイルへ目を落とした。


「確率ゼロか...」


「ああ、凄いよな...全く一致しないんだから」


 笑えてしまう。

 俺は他人の子供を、自分の息子だと疑わず、四年も育てていたんだから。


「なんで鑑定をしようと?」


「亮二の...この子の血液型だよ、俺と史佳はA型、AB型が生まれる筈ない」


「でも病院で取り違えとか」


「母親とは100パーセント親子だって」


 もう一枚の書類を取り出す。

 史佳の歯ブラシをこっそり新品と入れ換えて、検査に出した。


「なんで亮二君の血液型に気づかなかったんだ」


「母子手帳の血液欄にA型のシールが貼ってたんだよ、剥がしたらAB型が出てきた」


 偽装工作のつもりだったんだろう。


「どうして急に気づいたの?」


「やっばり顔とかか?」


「違うよ」


 確かに亮二は俺と全く似てない。

 でも史佳と似ていたから、そんな物かと思っていた。


「2ヶ月前に息子の...亮二の通う保育園の連絡帳にAB型って書いてあったんだよ。

 普段はそんなの俺が見ないから、史佳も油断してたのかな」


 あの時は忘れ物をして、昼休みに自宅へ取りに帰ったんだ。

 誰も居ない部屋のテーブルに置かれていた連絡帳、血液型を確認したのは、薄々そうじゃないかって思い始めていたからだろうか?

 今は分からない。


「...思わぬ所からバレるものね」


「で、どうするんだ?」


 そんな事決まってるさ。


「まあ...離婚しかないよ。

 後は子供の籍も抜かなきゃな」


 赤の他人の籍に居るのは亮二が可哀想だ。


「それは当然でしょ!問題は慰謝料よ!!」


 睦美さんは声を荒らげるけど...


「慰謝料をなぜ?」


「お前...分からないのか?」


 何が分からないんだ...あ、二人は知らないんだった。


「史佳には世話になったろ?

 あと義両親も、俺を本当の息子みたいに良くしてくれてたし」


 中学の時に実の両親を病気で相次いで亡くした俺を大切にしてくれたんだ。

 金を毟り取る真似はしたくない。


「いや、義両親に金の件は関係無いだろ」


「そうだが、俺は結婚した時は殆ど無一文だったろ?

 それなのに、義両親は結婚を反対しなかったばかりか、結婚費用まで出してくれて。

 頑張って俺を今まで支えてくれてたんだ、共有財産は向こうに渡すよ」


 貯金は大した額じゃないが、まだ家のローンは結構残っている。

 一応正社員の史佳だが、今後の支払いを考えたら金は必要。

 義両親にも負担が及ぶ事になってはいけない。


「いや...それとこれは話が別で」


 なぜ孝は分かっくれないんだ?


「そもそも托卵するのは酷すぎるわ!」


 また睦美さんは声を荒らげた。


「そっか?

 托卵したのも何らかの事情があったんだと思うし」


 継続的な浮気なら話は別だが、一応興信所で調べた結果、史佳に男の陰は無かった。


「事情なんか関係無いでしょ!」


「そうだ、いかなる事情が有ったとしても、正当な理由にはならないぞ」


「そうかな...」


 俺がおかしいのか?

 でも史佳から愛されていたと思う、だから...憎みきれないんだ。


「なんで真保君はそんなに冷静でいられるの!

 史佳の事を愛してたんじゃ無かったの?」


「まあ...自分でも分からないんだ」


「お...おい」


「まさか貴方も浮気を...」


「...ん?」


 何か勘違いしてるな。


「それは無いよ、でも史佳を本当に愛して結婚したのかって聞かれたら...」


 自信を持って史佳を愛して結婚したと言えない。

 この前までは自信を持って言えたのだが、今は揺らいでいた。


「まさか逸頭(はやず)の事か?」


「紗央莉が?」


「...そうだよ」


 素直に認めるしかない。


 逸頭紗央莉。

 史佳と付き合う前、俺の恋人だった(ひと)


「紗央莉と連絡を取り合っているの?」


「いいや、卒業以来全くだ。電話番号どころか、住所も知らない」


「そうよね...私達も知らないし」


「突然連絡を絶ったからな」


 俺が紗央莉と別れたのは、大学四年の夏だった。

 それまで順調で、就職も同じ会社を目指していたが、突然言われたのだ。

 父親の田舎で、見合いをすると。


 俺は必死で止めたが、紗央莉の父親が病気で早く安心させたい、その言葉に折れてしまった。


「もうお母さんしてるよ」


「...5年も経っちゃったんだね」


「そうだな...元気なら良いが」


 二人も紗央莉を思い出している。

 当時、随分と紗央莉を説得してくれたが、結局翻意させられなかった。

 その後、紗央莉は大学に段々来なくなり、卒業前には全く姿を見せなくなっていたんだ。


 卒業式にも出なくて、俺は紗央莉に連絡をしたっけ。


『結婚しました。

 妊娠したの、もう連絡して来ないで』

 これが最後の電話だったな....


「紗央莉の事はもう良いだろ。

 とにかく離婚に向けてだ、このままじゃ亮二が可哀想だよ。

 偽物の父親と暮らすなんて」


「そうだが...亮二君はお前に懐いていただろ?」


「辛くないの?」


 ...なんで聞くんだ?


「辛くないかって?

 辛いに決まってるだろ、四年も息子だと思っていたんだぞ?」


「す...すまん」


「ごめんなさい...」


 しまった、当たり散らすなんて俺らしくない。


「まあそんな訳だ。

 近々離婚に向けて話を進めるつもりだ。向こうの義両親もまだ働いているし、史佳の稼ぎもあれば何とか生活出来るだろ?」


「お...おい政志」


 まだ孝は何か言いそうだが、そろそろ終わりにしよう。


「慰謝料は取らない。

 史佳には本当に悪い事をしたよ、紗央莉の代わりをさせたみたいで」


 史佳を紹介したのは、誰あろう紗央莉だった。

 高校の一つ後輩で、紗央莉を追って東京に来たそうだ。


『この子もサークルに入れてあげて』

 大学二年の時、紗央莉はそう言ったんだ。


「この事を紗央莉が知ったら...」


「それは止めてくれ」


 きっと紗央莉は平穏に暮らしている筈だ。

 そして、史佳と付き合う事になったのも、紗央莉が史佳に俺と別れたと言ったのが切っ掛けで、猛アプローチされたんだ。


「出来婚して、これじゃ締まらないよな」


「...政志」


「真保君...」


 紗央莉と別れ、自棄になっていた。

 まさか、史佳を妊娠させてしまうなんて...それが托卵とは本当に笑えない話だ。


「なんだかな....バカみたいだ」


 いつの間にか泣き笑いしている俺だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「いつものメンバー」(笑)。 三人だけかと思ったらまさかの息子が亮二! ってことは間男は満夫君…… [気になる点] 政志が史佳を憎めない理由。 愛情やおカネだけではない何か? [一言] …
[一言] よりによって史佳の息子が亮二かよ 遺伝上の父親は多分アレだろうし、まともに育ちそうもないのがなんとも
[一言] 何故こんなことになったのか続きが気になるところだけど、それより息子の名前みて、将来女誑しの悪い男になっちゃう気がして心配…。
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