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蒼い勇騎  作者: 風南 春樹
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初めての共同作業

 空を飛んだのなんて、人生で初めての経験だった。

 ううん、正確には地面から浮いてきたってだけなんだけど。それでも、こんな景色は生まれて初めて見たものだった。そしてまだ落下はせずに、森の木々よりちょっと頭が出てるこの高さで浮遊を保つことが出来ているみたい。

「ギタト……あなたの背中の翼のおかげで、こんな素敵な景色が見られるなんて思っ――ギタト?」

「……グッ!ギゥゥゥ……!」

 私の背中から、なんだか苦しそうな呻き声が聞こえてきた。

「ギタト!?」

 苦しがっている?

 まさか…私を抱えて浮遊したままいるのは、やっぱり腕や翼に相当な負荷が掛かっているの!?

「……っ、ミサオ、けしき、みられる?」

「あっ、そうだった……もう少しだけ、我慢できる?」

「グゥ……がまん、できる。ギゥッ……!」

 気丈に返事を返してくれたけど、とても辛いのが声で分かってくる。早くこの辺りの状態を確認しなきゃ…!

「っ……えっと……。」

 この辺り一帯は一面森に覆われているけど…その左右には大きな山が壁のように連なっている。あそこまで飛んでいくなんてのは無理かもしれないけど、その山々の間にはそれよりも低い、石で出来た丘みたいな場所がある。方向は…私達が浮いている向きから左斜め前くらいの方角、これを覚えておけば――。

「ガウゥ!アオォォォー!!」

 私が方角を覚えようとしていると、私達が浮いている真下から、とても響く唸り声が聞こえてきた。

「あっ、ジユウ!?」

 どうしたの!?下で何かがあった!?

「ミサオォォォー!ギタトォォォー!アオォォォ!!」

 あっ……ま、まさか!?

 そういえばジユウには、何も説明しないままでこうして浮いて来ちゃったから…。もしかして、置いて行かれたって思っちゃってる!?

「ジ、ジユウ!待ってて、もうすぐ戻っ――」

 私が真下にいるはずのジユウに向かって、そう叫ぼうとした時だった。

 左右の木から、交互にガサガサと何か木々が激しく揺れるような音がしたと思ったら。その揺れていた木々の一本から、大きな影が私達に向かって飛びかかってくるのが見えた。

「ミサオォォォーーー!!」

「うわぁぁぁぁ!じ、ジユウ!?」

「ギゥゥゥゥ!?」

 ジユウが浮いている私達にめがけ飛んできた。

 そしてギタトの身体の何処かに掴まったらしく、一気に浮遊のバランスを崩し始める。

「ジユウ!待ってっていっ――」

「ミサオ、ミサオ!」

 ジユウは涙声で私の名前を何度も呼ぶ。

 私達に置き去りにされるのが、よっぽど嫌だったのだと訴えかけてくる。これはジユウに何も言わずに行動してた私の失敗だよね。私だって同じ事をされたら、置いて行かれたと泣き叫んでいたかもしれない……。

「ギゥゥゥゥ!」

 ギタトの苦しそうな声が耳に届き、浮いてる私達の身体がどんどん森の木々くらいまで下がってきているのを見て私は我に返る。

 そうだ!それを反省するのはあとだ!

「ぎ、ギタト!一旦、地面まで降りて――」

 そこまで言いかけて、私はふと頭の中で考えを巡らせた。

 このまま地面に降りる――ジユウが掴まっていることで、落下するに近い速度で地面に――。

「だ、ダメだ…このままじゃ――っ!ギタト!こ、このまま飛んで……あ、あの丘の方にまでいけないかな!?」

 私は景色の少し先に見える小高い丘を指さして叫んだ。

「グウゥゥゥ!み、ミサオ……あの、おか?」

「そう、あっちに向かって飛んで!……ジユウ!」

「ガゥ!?」

「いいから、そのまま掴まっていて!……風の、精霊達っ!もう一度だけ、私に力を……我に力を貸したまえっ!!」

 私は片手で丘をずっと指さしたまま、もう片方の手に魔力を込めだした。

 ギタトの翼の力で宙に浮いているのならば、私の風の魔術を落下方向へと放てば、少しでも浮力が生まれるかもしれない。

「ふぅぅぅ……はぁぁぁーーー!!」

 半ば本能的にそう考えた私は、手の先に込めていた風魔術を真下方向に目掛けて一気に撃ち放った。

「こ、これでどう――わっ!?ふあっーーー!?」

「ギゥ!?ギウゥゥゥーーー!?」

「ガウッ!?アワワワ!」

 目論んだ通り、私達三人の身体がその場からふわっと浮き上がり、さっきまでより見える景色が高くなった。

 た、た、高いっ!こ、怖いぃぃぃ!……で、でもこれならどうにか、あの丘まで――」

「――ミサオ、すごい!ギゥゥゥ……とんで、あそこまで!」

「うん!ギタトお願い、頑張って!!……たぶん私も、今の方法でならお手伝い出来るから!」

「ギゥ!!ギタト、がんばって、おかまで!」

 とても苦しそうに顔を顰めながらも、必死に背中の翼を振るわせてギタトが丘方向を目掛けて必死に飛んでいく。

 やがてもう少しで丘へと辿り着きそうに見えた時、私は気が付いた。

「あっ……これって……ま、マズい!」

 丘は私達が飛んでいる高さよりも、もう少しだけ高かった。このままいけば、私達は丘の地面に激突してしまう!

「だ、ダメだっ!このままじゃ、ぶつかって――」

「ガウゥゥゥーーー!!」

 私が叫んだのと同時に、ジユウはギタトの身体に掴まったまま下半身を私達の前へと突きだした。その足に地面が着きそうになった瞬間、バタバタと地面を走るように動かし始める。

「あっ!ジユウ、足が――」

「――アウッ!アウウウゥゥゥ!」

 そうして触れたらしい足で地面を蹴るようにして前へ前へと進んでいく。

「ギゥ!?ジユウ、あしが!」

「う、うん!そのまま、そのままで――」

 そうして進んで行った先に、丘のてっぺんらしき場所が見えてきた。

「そこで――ジユウ、ギタト!止まっ――止まってぇ!!」

「ガゥ!?」

「ギゥ!」

 二人が私の声に同時に反応し、一気に身体の力を抜くようにして手足を離した。すると当然の如く――。

「きゃぁぁぁ!!」

「ギィィィ!!」

「ウガァァァーーー!!」


 私達は地面に転がるようにして着地を果たしたのだった。

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